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第6話 罪音(6)
「眞玄だっけ? ギター、いつからやってんだ」
「中一……13歳くらい?」
「三味線は、何歳から?」
「6歳くらいかな……?」
「おまえ今いくつ」
「21ですけど」
「どっちも経験なげえんだな……」
三味線だけ見たら、弦楽器のキャリアなど竜司とそう変わらない。
(俺確か、今年で27……か? 多分)
しょっちゅう記憶がなくなるので、自分の年なんてあまり意識していない。とりあえず現在の西暦から自分の生まれ年を引いて、把握しているようなものだった。不便だ。
(六つも下で、これかよ……参るわ)
そんなことを言っても始まらなかった。思わず苦笑いが漏れる。
「これで歌も同時進行出来るんだから、そりゃ一人で充分だわな。俺達が二人でやってることを、一人で完結させてる」
別に悪気のない竜司の感想に、ふと眞玄の表情が曇った。何か言いたそうな顔だ。
「竜ちゃん、眞玄はバンドやりたいんだよ」
「あ、そうなん? あの、スリーピースのバンド?」
「……うん、まあ。今は一人でも、いずれ絶対、バンドで活動したいと思ってるからー」
「こだわる理由がわからねえな」
「他の人にはわからなくても……俺には、大切なんだよね」
「……そうか」
竜司が珍しく壱流以外の人間と、結構喋っている。壱流はそれを傍目で見ていて、なんとなく嬉しく思う。
「まあいいや、好きに料理してくれよ」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、竜司は部屋を出ていこうとする。
「竜司?」
「ちょっと一服」
竜司は喫煙者ではないので、多分気分転換に席を外しただけなのだろう。今いる竜司は、何ヵ月も記憶を保持しているので迷子になることはないだろうが、大丈夫かな、と壱流は目で追う。
「ごめん眞玄、俺もちょっと外す。西野さん、あとよろしく」
「……はーい。どうぞ?」
眞玄は不思議そうに返事をして、苦笑いしている西野に視線をやった。
「俺、なんかやらかしたかな?」
「二人でミーティングでもするんじゃないの? 眞玄がなにってわけじゃ、ないと思うよ。……それに今日は竜司、結構喋ってたよ」
「ふうん……?」
深い意味もわからず、眞玄は曖昧な返事をした。
「あ、ねえ。俺も一服していーい。煙草吸いたくなったかも」
「あれ、眞玄煙草吸うんだ……あまり吸い過ぎないようにね」
「一箱で三日くらい、平気で保つけどね……ニコチンていうより、これの匂いが好きなんだ。他の銘柄は、あんまり好きじゃない」
差し出された灰皿を受け取りながら、眞玄は細い煙草に火を点けた。
「眞玄、もしかして君……一回聴いた曲、全部弾けるレベルで覚えちゃうの?」
「いや、まさかぁ。そんないちいち細かいとこまで覚えてたら、頭パンクするわ。……さっきのは覚えるぞって集中して聴いてるから、出来るんであって。あと楽譜も貰ってたから、ざっと補完したりしてさ」
軽薄そうな笑顔で否定した眞玄は、手元に渡された楽譜に目を落としたが、ふと思い出したように部屋の隅に設置されたビデオカメラに視線を移した。
「ところで、なんで打ち合わせの時、いつもビデオ回ってんの?」
「今後の参考にね。気にしないで」
西野の言葉は半分本当で、半分嘘だった。
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