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第7話 罪音(7)

 竜司がビル内の自販機で炭酸飲料を買って、移動もせずにその脇で飲んでいたら、壱流がやってきた。 「んだよ?」 「急にどうした? 眞玄、嫌だったか?」 「そんなんじゃねえよ。逆。もしかしたら、仲良くなれるんじゃねえかなって、思ったくらい。あいつセンスあるな。あの若さでよ」 「……そう。だったら、仲良くしてもいいんじゃないか?」 「どうせ俺は忘れるだろ。仲良くしたところでさ」  竜司はぽつんと言って、飲み終わった空き缶をダストボックスに投げ入れる。  聞かれたらまずい話だ。壱流は念の為周囲を見回したが、周りには誰もいなかった。 「壱流、おまえ……なんか意図してる? 今回のこと」 「意図ってほどのことは」 「――ま、別にいいけどよ。とりあえず、俺は曲を作った。それをあいつに丸投げしてやる。それでいいだろ」  どうでも良いことのように言って、竜司は自分の後頭部を擦るようにした。  真紅の髪の中に隠れた、過去の傷跡を指で追う。 (ここから溢れ出す俺の記憶)  壱流を翻弄させる。 (俺自身をもいたずらに弄ぶ)  どうしてこんなことになってしまったんだろう。  勿論過去の映像を見て、今とは別の自分が語った怪我の理由を、竜司は知っている。それについて壱流に深く突っ込むと、彼のメンヘラ具合に加速がつくことも理解している。 (俺が壱流を壊した)  だからこそ、優しくしたい。愛したい。  壱流に妻子があろうとも、その体を抱く。  可哀想な壱流。  竜司と一緒に来なければ、こんなことにはならなかった筈なのに。確かに音楽では成功したかもしれない。けれどそれと引き換えに、壱流の精神は病む一方だった。竜司にはどうすることも出来ない。今どうにか出来たとしても、すぐに忘れる。 「丸投げされても、今後インタビューとかで聞かれるかもしれないよ」 「そん時はおまえがフォローしてくれよ」 「たまには自分でフォローしろ」 「おぅ。突き放したな」  冷たく言った壱流に、ふざけたように返す。竜司がこんなことを気にするわけもない。逆に嬉しく思う。 「壱流。……あの三味線小僧と、仲良くして欲しいのか」 「別にそんなんじゃないけど。ただ……竜ちゃんが、俺以外の誰かと……交流があったらいいだろうな……って。ちょっと思っただけで。眞玄はギター巧いし、いい子だし、もしかしたら気が合うかなって」 「だからそれが意図してるって言ってるんだよ」 「ごちゃごちゃうるさいな」  壱流は面倒くさそうだった。 「……ま、仲良くすんのはかまわねえけどさ。忘れたらどうする。あいつへの説明は?」 「そんなもの、いつもみたいにビデオでも見て思い出した気になれよ」 「俺が交友関係を築くにゃ、周りの協力なしには無理だからな。それだけは覚えとけよ。……壱流には、責任がある」

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