10 / 18

第10話 罪音(10)

 たまに西野のやることがよくわからない。  無意識に爪を噛む。  なんだろう、この苛立ち。  本当に誰かに、というより眞玄に、曲を提供などして良かったのだろうか? という疑問が今更ながらに浮かんでくる。 「壱流のそういう顔、久し振り」  ふと横で、竜司の楽しそうな声がした。どういう顔だ。胡乱な目を向けると、竜司は小さな声で続けた。 「わざとじゃね、西野さん。おまえに発破かけてんだよ、あれは」 「は?」 「俺だって、おまえに自分のギターと比較されてるみたいで、最初はいい気しなかったよ。だけどまあ、俺は別物として捉えた」  確かに別物だが……やはり比較されるみたいでいい気はしない。 「俺らに、なんつうの……もちっと成長しろってことなんじゃ? 新しいこと考えろってのも、それ」 「成長……精神面でか。技術的なことか」 「両方だろ」  ちらと西野を見るが、まったくこちらを見ていない。不自然なほどに、顔を背けて眞玄だけを観察している。 (この男も食えない……いつも笑顔でよく読めない)  まひるの従兄にあたる男だが、元々はグラドルだったまひるも、引退後は同じ事務所でマネージメント業などをさせたり、いろいろ世話にはなっている。まあ、やり手なのだろう、という意識はあるが、そこまで考えているのだろうか。別に西野は壱流たちのマネージャーというわけではない。 「負けず嫌いだな、てめえはよ」 「じゃなきゃこんな仕事続けられない」 「だけど、思うに勝ち負けじゃあ、ないよな。別の人間だし、壱流は壱流。あいつはあいつの歌い方」 「……まあな」  どこか納得が行っていないような顔に、竜司が笑う。 「何が納得出来ない?」 「竜司にこんなこと言われてる俺という存在が、納得行かない」 「どういう意味だそりゃ」  今度は竜司の顔が不満そうに歪んだ。  壱流は特にフォローすることもせずにその不満そうな顔から視線を外し、眞玄を見た。  確かに、別物だ。  壱流が意図した歌い方とは違う。だがこれはこれでありかもしれない。 (だけどやっぱ……違う。さっきのとこは、俺が歌ったようにした方がいい)  それでも壱流は眞玄が歌い切るまで、何も指摘しなかった。竜司に言われて落ち着いた。何を頭に血を昇らせているのだろうと恥ずかしくなった。  西野が何を考えていようと関係ない。  壱流は壱流が出来ることをやるだけだ。 「はい眞玄、お疲れ様。んじゃ、壱流。どうします? 壱流の歌入り、流しましょうか」 「いやいい。俺が直接眞玄に指導する」 「おや」  立ち上がった壱流は、ギターを持って立っている眞玄の隣まで歩いていって、立ち止まる。

ともだちにシェアしよう!