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第10話 罪音(10)
たまに西野のやることがよくわからない。
無意識に爪を噛む。
なんだろう、この苛立ち。
本当に誰かに、というより眞玄に、曲を提供などして良かったのだろうか? という疑問が今更ながらに浮かんでくる。
「壱流のそういう顔、久し振り」
ふと横で、竜司の楽しそうな声がした。どういう顔だ。胡乱な目を向けると、竜司は小さな声で続けた。
「わざとじゃね、西野さん。おまえに発破かけてんだよ、あれは」
「は?」
「俺だって、おまえに自分のギターと比較されてるみたいで、最初はいい気しなかったよ。だけどまあ、俺は別物として捉えた」
確かに別物だが……やはり比較されるみたいでいい気はしない。
「俺らに、なんつうの……もちっと成長しろってことなんじゃ? 新しいこと考えろってのも、それ」
「成長……精神面でか。技術的なことか」
「両方だろ」
ちらと西野を見るが、まったくこちらを見ていない。不自然なほどに、顔を背けて眞玄だけを観察している。
(この男も食えない……いつも笑顔でよく読めない)
まひるの従兄にあたる男だが、元々はグラドルだったまひるも、引退後は同じ事務所でマネージメント業などをさせたり、いろいろ世話にはなっている。まあ、やり手なのだろう、という意識はあるが、そこまで考えているのだろうか。別に西野は壱流たちのマネージャーというわけではない。
「負けず嫌いだな、てめえはよ」
「じゃなきゃこんな仕事続けられない」
「だけど、思うに勝ち負けじゃあ、ないよな。別の人間だし、壱流は壱流。あいつはあいつの歌い方」
「……まあな」
どこか納得が行っていないような顔に、竜司が笑う。
「何が納得出来ない?」
「竜司にこんなこと言われてる俺という存在が、納得行かない」
「どういう意味だそりゃ」
今度は竜司の顔が不満そうに歪んだ。
壱流は特にフォローすることもせずにその不満そうな顔から視線を外し、眞玄を見た。
確かに、別物だ。
壱流が意図した歌い方とは違う。だがこれはこれでありかもしれない。
(だけどやっぱ……違う。さっきのとこは、俺が歌ったようにした方がいい)
それでも壱流は眞玄が歌い切るまで、何も指摘しなかった。竜司に言われて落ち着いた。何を頭に血を昇らせているのだろうと恥ずかしくなった。
西野が何を考えていようと関係ない。
壱流は壱流が出来ることをやるだけだ。
「はい眞玄、お疲れ様。んじゃ、壱流。どうします? 壱流の歌入り、流しましょうか」
「いやいい。俺が直接眞玄に指導する」
「おや」
立ち上がった壱流は、ギターを持って立っている眞玄の隣まで歩いていって、立ち止まる。
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