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第11話 罪音(11)

 立ち上がった壱流は、ギターを持って立っている眞玄の隣まで歩いていって、立ち止まる。 「んーと……初めて歌ったんで、きっと変なとこあるよね。壱流さんの気になるとこあったなら、どんどん言って?」 「……その前に、なんでさっきとギター変えた?」 「ん? んー……歌詞と照らし合わせた結果、こっちのが盛り上がるかなーと思って。変だった?」 「いや、良かったよ。わかった。教えてやる。俺が歌うから、眞玄は……あ、竜ちゃん。こっち来てギター弾いて」 「え、俺」  高みの見物をしていた竜司は、急に自分に矛先が向いてがたんと立ち上がる。 「一度俺が通しで歌うの、聴いて欲しいから。ギターの片手間じゃなくて、ちゃんと」 「収録したのじゃなくてか?」 「歌いたい」 「……わかったよ」  竜司は小さく笑い、念の為持ってきていた自分のギターを手にする。 「眞玄は座って。で、聴いてて。全部コピーしろとは言わない。ただ、取り入れて欲しい」 「……うん。わかった」  眞玄はにっこり笑って、言われたとおりに椅子に戻った。 「眞玄、楽しそうだね」  西野自身も楽しそうに指摘した。 「うん、だって。楽しいよねー、こういうの。より良くする為のディスカッション? みたいなー。俺一人やだから……こういう皆で頑張る、みたいなの、大好きだよ。……あ、始まるから、俺黙るわ。集中する」  眞玄は一人で充分いけるんだけどな、と西野は思ったが、口にはしなかった。技術的にはそれで問題なくとも、多分精神面で不足してしまうのだろう。深く付き合ったわけではないが、眞玄は結構孤独を嫌う。だからだろうか、すぐに誰とでも打ち解ける。心のガードが緩い。  しかしそれは逆に、気を付けてやらないといけない一面でもある、と西野は考える。世の中眞玄に優しい存在ばかりでもないのだから。  すぐ目の前で繰り広げられるZIONの演奏を、聴き漏らすまいと集中する眞玄を横目で見ながら、まあ今はいいか、と心の中で呟いた。 (壱流が今回の件を提案してきたのは意外だけど、結果的には良かった)  今回のことは、壱流にとっても、竜司にとっても相乗効果で良い刺激となる。新しいことをしろと言ったのは社長の意向というよりもむしろ、まひるからの提案だった。  元々はZIONのマネージャーだった彼女は、子育てに忙しいので今は他の人間に任せている。自分が公私共にずっと付いていることが出来ない。その為かなんなのか、少し刺激を与えて成長を促すよう、言ってきた。それを現在のマネージャーを通じて、社長の方針として二人に伝えた。 (さっきからの壱流の態度は、なかなかに興味深い)  ちょっとにやにやしてしまい、西野は口元を押さえた。

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