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第13話 エネミー・インサイド(1)
初めてのお泊まりというのは、どきどきするものだ。それはいろいろな意味で。
仕事の終了時間が押してしまい、その日の新幹線に乗れなかったのでホテルでも取ろうかと思っていた眞玄は、軽い冗談で、デビュー曲を手掛けてくれたZIONの竜司に対し、
「竜司さん、泊めてー」
と、相変わらずの軽薄そうな笑顔を向けた。
勿論眞玄としては承諾などされるとは思っていない。今日は現場が同じだったので、得意とするSNSでのやり取りではなく、直接言ったのだが、竜司は意外にも「おう、いいぞ」と答えた。
傍にいた壱流がぎょっとしたように竜司を見たが、眞玄にはその理由がよくわからなかった。
「竜司、ちょっと」
その腕をぐいっと掴まれ、眞玄から少し離れたところに連れていかれた竜司は、つい自分の口から漏れた承諾に、ちょっとびっくりしているようだった。
「あ、いや……うっかり。なんだろな、あの軽ーい口調と態度で言われると、なんかほんとうっかり承諾した」
「俺と一緒に住んでるなんて、客観的におかしいだろう。どうするんだ」
「……しゃあないから、おまえはまひるさんとこで寝てくれ。ずっといるわけじゃないんだし、バレないだろ」
「竜司……一緒のベッドで寝るわけじゃないよな」
嫌そうに呟いた壱流に、思わず苦笑する。
「仕舞ってある布団とかあるだろうが。リビングにでも、それ出してやりゃいい。変な心配すんなよ」
「別にしてない」
壱流は怒ったように竜司から視線を逸らした。
「それに俺の部屋なんて見たら、眞玄ドン引きすると思うから、入れねえよ」
「――確かにな」
竜司の部屋は、少し騒々しい。壁にべたべたと、過去の写真やらがたくさん貼られている。それは記憶をなくした時の為の保険であり、目覚めた時仮に記憶がリセットされていても、足掛かりとなるように配置されていた。
それを他人が目にしたら、なんて鬱陶しい部屋なんだろうと思うだろう。
とにかくそんなわけで、現在のZIONのマネージャーをやっている三宅 という男の運転で、ついうっかり眞玄をマンションに連れ帰ることになってしまったのだ。
三宅は壱流達のマネージャーになって日が浅いものの、元マネージャーであるまひるから絶大な信頼を得ている。以前は畑違いのプロダクションで仕事をしていた。昔々にグラドルをやっていた頃の、まひる自身のマネージャーだった男だ。それを引き抜いてきて、今はZIONの管理をして貰っている。
その三宅にマンションまで送り届けて貰う道中、車の運転についての話になった。
記憶障害のある竜司は勿論のこと、壱流も車の運転は止められていた。何かあった時の損失を考えたら、自ら運転などすべきではない、というのが社長の考え方だった。
「えー? でも俺は運転大好きだよ! こっちまではさすがに車で来ようと思わないけどー。地元ではがんがん自分で運転しちゃう。……あ、俺怒られないかな?」
何故運転しないのかという話になって、三宅の隣の助手席に座った眞玄が不満そうな声を発した。
「眞玄は何乗ってんだ?」
「レク◯スのオープンカー。黒いIS25*Cっていう奴。かっこいいよ」
「ガキがクソ生意気」
「デートに車は必須っしょ!」
「もっと身の丈にあった車にしろよ」
「えええー」
竜司の物言いに、眞玄は苦笑する。だいぶ打ち解けて、いろいろ喋れるようになった。最初はちょっと恐い人なのかと思うこともあったが、話してみればそんなことは全然なかった。
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