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第14話 エネミー・インサイド(2)
「充分気を付けて、事故や違反など起こさずに。それが守れれば、乗って悪いことはないけどね」
運転席の三宅は静かに言って、ふと続けた。
「そういえばデートって……眞玄は決まった彼女いるのかな」
「んー? 付き合ってる子いるよ」
「何人?」
「……一人だけど? 俺は同時進行は絶対しないですし」
「えー、ほんとかよ。眞玄、絶対遊んでそうだよなあ」
「ちょ。竜司さんマジ誤解」
後部座席から口を挟んだ竜司に、眞玄は本当に不本意そうに文句を返す。何故か壱流はそんな世間話の輪には入らず、ぼんやりスマートフォンをいじっていた。誰かに短いメッセージを打って、画面を閉じる。返信が間を置かずに来たものの、ちらとポップアップを見ただけですぐに伏せる。
「ねえねえ壱流さんは?」
「……え? なに? 聞いてなかった」
「彼女いんのー?」
壱流はその質問にとても嫌そうな顔をし、どうしようかと迷っているふうだったが、三宅が助け船を出してくれた。
「眞玄、そういうのは秘密なんだよ。聞かれたからって、ほいほい答えたらいけない。だからさっきの私の質問に対する君の応えも、ほんとはNG」
「えー、なにそれ。ひっかけ問題?」
「まあ私は身内だから、いいけど」
「前に西野さんにも、下半身関係どうなのって聞かれたからさー、素直に答えるべきなのかと思って。そんな自分から言いふらしたりはしないから! 大丈夫だよ。……そいや三宅さんて何歳? 結婚してんの?」
「君のお父さんと同じくらいだよ。で、独身」
「え、そうなの」
なんだか急に嫌そうな顔したが、ふと眞玄は考えるように上を向く。
「あ、そうかあ。親父んとこの鍵でもゲットしちゃえば、帰れない時ホテル代わりになるかなー……」
「お父さんの家、近いの?」
「引っ越してなければ。俺小さい頃はこっち住みだったんだよね。離婚してばあちゃんちに移動」
「大学卒業したら上京したらいい。不便だろう」
「んー……いや、無理。交通費かかっても、通いたい」
更に嫌そうな顔をした。
眞玄にとっては祖母を置いて家を出ることそのものが、否定材料だった。しかも今は腹違いの幼い弟も同居していて、眞玄はその子をとても可愛がっていた。
「眞玄のお父さん……上弦 さんて結構キャラ濃いよね。以前何かのイベントで顔を合わせたことがあるけど」
「……あ、そうですか。それは大変失礼しました」
「まあ、そのくらいじゃないとね。勿論彼はキャラだけで売ってるわけじゃないし、技術は確かだよねえ。眞玄も三味線弾けるんだから、そういうのも今後前に出してみたら」
「考えとく……」
眞玄と三宅のやり取りを聞いていた竜司は、ふと笑う。
「お父さんと同じくらい、って聞くと、途端に親子の会話みたいに見えてくるから不思議だな。三宅さん、こんなでかい息子がいても、おかしくねえんだ」
「そうだねえ……」
三宅はなんだかしみじみ言って、口元に小さな笑みを浮かべた。
そんな世間話をしていたら、いつのまにかマンションの地下駐車場に乗り入れていた。
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