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第15話 エネミー・インサイド(3)
「壱流、着いたぜ」
「――ん、ああ」
竜司の横でうたたねしていた壱流は、声を掛けられて軽く伸びをした。その時にふと眞玄の表情が変なふうに動いたが、誰も気付かなかった。駐車場で三宅と別れ、エレベーターに三人で乗り込む。遅い時間で、周囲はしんとしていた。
「一緒のフロアに住んでんの?」
「そう。近い方がミーティングとかすぐ出来るし、便利だろう」
眠そうな壱流はエレベーターの中で欠伸をして、まるで他意などないように答える。
「壱流さん、猫かなんか飼ってる?」
「……飼ってないけど? なんで」
「なんか飼ってそうなイメージだったから、聞いたんだー」
「まあ、壱流自身が猫だけどなあ。眞玄は猫派? 犬派?」
「飼ったことあるのは、チャボ。昔庭にいたよ。今はなんも飼ってないけど、ハコフグが好き。可愛いよねー」
「犬か猫かって聞いてんのによ」
竜司が笑って言ったので、眞玄も笑った。何故そんなことを聞かれたのか、少し不審な顔をしていた壱流は、それ以上そのことについて何も言わなかった。
エレベーターが目的のフロアについて、隣同士の部屋の前で壱流と別れ、眞玄は竜司が開けた方の玄関をくぐった。
「……ねー、竜司さん。壱流さんて、」
「あん、なんださっきから」
「いや、やっぱなんでもない」
変なふうに言葉を切った眞玄は、それ以上は言葉を飲み込んだ。なんだか気になる態度ではあったが、なんでもないと言う以上、竜司も突っ込むことは出来なかった。
「風呂入るんだったら、先に行けよ。タイマーでお湯張ってあるから、入れんぜ」
「あっ、竜司さんどうぞー」
「んじゃ一緒に入るかあ?」
にやりと意味深に笑った竜司に対し、売り言葉に買い言葉で眞玄も「いいけど?」と返す。ちょっと予想外の言葉に、竜司は思わず変な顔をした。
「……ん、まあ。いいか。時短だ時短」
そんな妙なやり取りがあって、何故か一緒に風呂に入ることになってしまった。
幾分広めの浴室には二種類のシャンプーが置いてあって、眞玄はちょっと悩む。ふたつを手に取り、片方がカラーリングした髪用と書いてあったので、それは置いてもう一方を選んだ。竜司の髪は深紅に染まっているので、多分カラーリング用というのは竜司のシャンプーなのだろう。が、もう一方はなんだ。
(これは……誰かの気配だよねえ)
彼女かな、とも思ったが、あまり女の匂いのする物の存在が察知出来ない。人の家に上がり込んで詮索するのもどうかと思ったので口にはしないが、眞玄はなんとなく察する。
(壱流……だったりして)
眞玄は何故か、壱流のことは心の中では呼び捨てだ。本人を目の前にすれば、目上だし一応は「さん」付けするが、元々出会う前から呼び捨てだったので今更という感じだった。
どうして壱流の名前が浮かんだのか、眞玄としてもよくわからなかった。野生の勘というやつだろうか。
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