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1, 王道BL学園なのになにか違う気がする
入学式当日。教室でのBL的イベントは特になかった。どこか席が空いているわけでもなく、人の良さそうな先生が普通に入ってきて「編入組は入学おめでとう。中学から上がってきた組は心機一転頑張れ」と挨拶して、すぐに体育館へと移動することになった。
体育館には先に上級生達が椅子に座っていた。ちょっと見回しただけでびっくりするほどの美形が多くて、ここで本当に王道BL学園に入学したのだと実感する。
理事長の話と校長の話は聞き流す。そしてお待ちかねの放送がかかった。
『それでは、生徒会からの挨拶です』
後ろに座っていた上級生達の方から声が上がった。キャーという黄色い悲鳴と、ウォーという野太い声援。本当に聞けるものなんだと内心でドキドキしていたが、少し違和感があった。黄色い悲鳴はカッコいいアイドルに向けるものというよりは、女の子が女の子アイドルに向けるような感じで、野太い声援は可愛いアイドルに向けるものというよりは、憧れやカッコいい存在に向けるような感じだった。
壇上した生徒会長がマイクを通して語りかける。
「在校生、声援ありがとう。でも少し騒がしいから口を閉じて」
見た目は満点の俺様系イケメンなのに、声や話し方がとても優しい。
生徒会長の挨拶を聞きながら、他の生徒会役員達を眺める。
並びからいくと、多分副会長だろう人はメガネをかけてはいないが神経質で生真面目そうな顔をしていて、会計だろう人はハーフアップヘアがなんとなくチャラい。書紀の片方は和風美人で、もう一人は顔がいいけど笑わなさそう。
役員達も満点の王道な顔をしてる。書紀がちょっと違う気もするけど、多分無口ワンコ系だろう。
「以上をもって、生徒会長、月見里 優次 から新入生への挨拶とする。ご清聴ありがとうございました」
そんなことを考えていたら生徒会長の挨拶が終わってしまった。最後にお辞儀をするなんて、本当に見た目だけ俺様なんだろう。
『続いて、風紀委員長からの挨拶です』
降壇する生徒会役員達と風紀委員長らしき人がすれ違う。壇上に立った風紀委員長の顔は、めちゃくちゃ厳つかった。この人、本当に風紀委員長?不良の総長とか一匹狼とか言われた方がしっくり来るよ?そう思ってしまうほど怖い顔にデカい体つきをしていた。
「……」
周りの新入生達が引いている感じがする。俺も引いている。風紀委員長はマイクの前に立っても何も言わない。しばらく沈黙が流れて、どうしたのかと話す小さな声が聞こえ初めた。その時、
「頑張れ!風紀委員長!」
とステージの横から誰か出てきて言った。上級生側から笑い声が聞こえたと思ったら、
「胸を張れー!」
「しょうちゃん可愛いー!」
という声が上がっていた。可愛い…?そう疑問に思っているとようやく風紀委員長が話し始めた。
「…あの…すみません。緊張して声が…」
マイクを通しているのにとてもか細い声。「咳払いしとけー!」というアドバイスが入ると後ろを向いて本当に咳払いした。なんだこれキュンとした。見た目と中身が合っていない。
「すみませんでした。風紀委員長の絹間 昇吾 で…といいます」
若干、顔が赤い気がする。このときめきはなんだ。きっとギャップ萌えに違いない。
「しんにゅ…新入生の中には、去年、我が校で事件があったことを知っている方…人がいると思います。我々、風紀委員ちょ…風紀委員会は、その時のことを悔やみ、絶対に生徒を守るという決意の元に改めて活動しています。
もし何かあったら言ってください。風紀委員室に駆け込んでもいい。風紀委員会は、あなたを助けます」
お辞儀すると、歓声が上がった。
「しょうー!かっこいいぞー!」
「俺たちも応援してるぞー!」
噛み噛みの挨拶だったけど最後は胸張って言っててかっこよかったし、こんなにわかりやすいギャップ萌えが見れたんだから問題ない。と、そこまで思って疑問が湧いた。
去年の事件って何だ?
教室に戻ってもエスカレーター組に友達はいないから聞くことができない。先生にはいわゆる事件というものを聞いていいかわからない。戻った時だって「風紀委員長が言った通り、我が校では去年事件があった」程度しか言ってくれなかった。
式典や授業と言う名の顔合わせが全部終わり、寮に戻って同室の子に聞いてみたけど同じ編入組だからやっぱり知らなかった。
答えを教えてくれたのは、部活で仲良くなった先輩だった。
BL小説みたいなゴシップがあるんじゃないかと興味本位で行ってみた新聞部がかなり居心地が良くて、仮入部期間ほぼ毎日通っていた。ゴシップ記事は書いていないらしい。昔は書いていたけど、いじめの原因になるとか、下品だとかで風紀を乱すから禁止令が出されたとのこと。部室にはその時に書かれたらしい黄色くなった誓約書が貼られていた。
一番仲の良い先輩は部員の予定を組んだり、各部活やクラスにアポイントをとるマネージャーのようなことをやっていて、常に部室にいる。だから新入部員の俺と他二名はずっと先輩と話していた。
そこで、ふと“去年の事件”を思い出した。
もし口外しちゃいけないような話だったら、せっかく見つけた居場所を失うかもしれない。でも、好奇心が勝って、とうとう聞いてしまった。
「そういえば、去年の事件ってなんですか?俺、編入組だから知らないんですよ」
「あー…」
それまで機嫌よく話していた先輩が、腕を組んで上を向いた。やはりダメだったか。聞いちゃいけなかったか。
「ごめんなさい!話しちゃいけない内容なら」「いや、大丈夫」
眼鏡を上げ直して先輩はほぼ被せるように言った。
「新聞として出そうとしたんだけど、ちょっと色々あって差し止められたの思い出しただけだから。あれは本当に書きたかったのに」
たははと笑う先輩は凹んでるように見えた。
「んー、いつもA3一枚の新聞が三枚になりそうだったから本気で話すと長くなると思うけど…」
「お願いします」
「まじかよ。お前、新聞部向いてるわ」
好奇心は大事だぞと先輩は親指を立てて笑った。
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