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6, ちょっと待て

 「発見できたのは奇跡的と言っていいほどだと思うんだ。煌一さんが帰宅するところに虎炉宇さんが遭遇して、優次が異変を聞いて兄の元へと訪れて、喧嘩が始まりかけた時にドアが開いていたから織くんの声が通って、弟の声を聞いた歩さんが大声を出したから見つけることができたんだから」  そう言って先輩はお茶を飲んだ。俺たちは何も言えない。これ、聞いてもいい話だったのか?そんな疑問がぐるぐる頭を回る。  「そうそう。この話は口外禁止ね」  やっぱりか。母が苦い顔をした表向きの事件でさえ“生徒の管理不行き届き”として結構評判を落としていたのに、書類偽造する理事会役員とかシャレにならないし、誘拐と監禁を事件にしなかった上に生徒を留学させたと知られたら…バッシングどころじゃないんじゃないか。  「君らが誰かに話したりしたら、下手したらこわーい大人が出てくるかもしれないよ。元会計の親がそういう筋の人らしいから」  「それを先に言ってください!そしたら聞かなかったので!」  思わず突っ込んだが、俺、悪くない。先輩は「だよねー」と笑った。いや笑い事じゃないって!  「まぁ、元会計に限らず、この事件の関係者のほとんどが何かしらの権力を持ってる親の子供だから、誰かに話したら人生のどこかで何か起きると思うよ」  あっけにとられて何も言えなくなった。他の二人も物音一つたてない。  「じ、じゃあなんで先輩は俺らに話して……」  「ん?聞かれたから」  部活時間終了のチャイムにかぶせて、先輩はそう言った。ノータイムで。ちょっと考えてということもなく。  「もうこんな時間か…でも昨日よりは早いな。俺はまだやることあるから残るけど、君らはどうする?」  「……衝撃が強すぎたので帰って休みたいです」  隣の奴がそう言うと、もう一人も頭を押さえて頷いた。俺も「帰ります」と伝えた。カバンを持って部室から出ると、後ろから「また明日ー」と、きっと笑顔の先輩の声が聞こえた。  新聞部がすごいのか、あの先輩が調べた量がすごかったのかわからない。でもとにかく凄い話だった。どうやって当事者から話を聞いたんだろう。詳しく聞けているところはまるで居合わせたような…あれ?  『転校生の親友くんってどうなったんだ…?』  最初の方に出てきて酷い目にあった親友くん。彼だけどうなったのか聞いていない気がする。確か、今の会長が弟で、他の役員は転校生被害者の本人だったり周囲の人だったり…で、転校生に歯向かったのは織くんという人で…やっぱり聞いていない。

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