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牽制
年上の彼氏がいるらしい。高級ホテルに男と入っていくのを見た。年上の男を飼っている。他にもいろいろ耳には入ってくるけど、そのどれもが少し考えれば嘘だと分かる物ばかりだ。
だけど、あえて否定も肯定もしない。
女王様でいることは楽だし、性に合っている。それに、実際に襲おうとする輩もいない。
手玉にとってちょっとからかってやればそれで満足されるから……。
「それをあえて、誘ってるんだろ」
園田はその長身で軽々と給水棟の上から飛び降りると僕の横に立って見下ろした。
「弁当美味そうだな。うちの寮のコックはいまいちなんだよな」
寮内の料理師も寮の競い合いで決まった。
「次のテストで交代を申し付ければいい。A寮が勝てればだけどね」
「それもそうだが、次の競い合いは副寮長選だ」
4月に学年が替わり、夏休みが明けてすぐに寮長は選出される。寮長は各寮の成績上位者となっていて、副寮長はその寮長の指名で全校生徒の中から選ばれる。だから、A寮の寮長がC寮の生徒を指名することもできる。
調理師や管理人、保健師の人事。講堂等の使用の優先権。文化祭の出し物の決定優先権。など、その時々によって違う。
競う競技は定期テストとは別に体育祭や小テスト、持久走、体力測定の順位など、寮長会で認証されればどんなことでも『競技』と認められて高校生活をより快適に過ごすことができるようになるのだ。
ただ、この夏休み明けの実力テストだけは、『副寮長選』と決まっていた。
僕のすぐ横に座り込むと弁当を覗き込む。
「何勝手に横に座っての?」
「勝手だからな」
そう返すと、「俺、甘い卵焼きが好きだったんだけどな」と弁当の端にある卵焼きをひょいっと口に放り込んだ。
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