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牽制
首を傾げて妖艶に微笑むと背の高い後輩はたじろいで頬を赤く染めた。
「いえ、その。仲がいいって……聞いて。その付き合ってるって聞いたから、本当かどうかを確かめたくて……」
「確かめて、僕が付き合ってないって言ったら、君が僕を慰めてくれるのかな?」
少し近づいて上目に視線だけで見上げる。益々赤くなる。それが面白くて、「君じゃ、僕を楽しませてくれそうにないものね」と口端を上げて笑った。
「あ、いえ……そんなんじゃなくて……」
「じゃあ、何で確かめたりするのかな?」
「……すいません」
僕が余計に近づくと慌てて後ろに下がって頭を下げた。
「別に、謝って欲しいんじゃないんだけどね」
「すいません。し、失礼します」
そう言うと踵を返して走って行ってしまった。
何度同じ答えをしただろうか。一臣との仲を聞かれ、いもしない彼氏のことを聞かれ、したことも無いのに恋愛相談をされ……。
そして、ありもしない経験談を話す。
『ガラッ』
すぐ横の教室のドアが開いた。
「一臣。お待たせ」
教室から出てきた一臣は回りに人がいないのを確かめてから、「可愛げ気がない」と呟いた。
「可愛い気なんて必要ないよ。立ち聞きなんて行儀が悪いなぁ」
可愛い気なんて必要ない。僕に必要なのは園田とこれ以上近づかないための防衛だけ。曖昧な態度と淫靡な雰囲気。園田の悪態が高まるほどにこっちも高める。
そうすることで……園田からは常に意識される存在でいられる。求められる。だけど、それには応えない。
「せいぜい身の安全を確保しておけよ」
一臣は言いながら寮に向かって歩き出す。
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