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牽制

「今夜、弘敏(ヒロトシ)と食事に行って来るけど、一臣もどう?」 「行かない」  弘敏は僕と一臣の父親の弟で、叔父にあたるが父たちとは歳が大分離れていてまだ30代前半だ。月に何度か食事に誘ってくれて、全寮制という息苦しい環境から連れ出してくれる。 「許可証出しといて」  そういうと一臣は頷いた。教室棟を出ようと下駄箱まで来ると一臣は振り返って近づいてくる。周りには数人の生徒がいて、一臣は耳元まで顔を近づけると、「何時になるんだ?」と小さく聞いた。  そう。一臣は人前では喋らない。  人前で話すことを極端に嫌う。それは幼い頃からの環境のせいもあるけど、自身の成長も相まってトラウマとなってしまっているから。  一臣の父親は人気声優だ。容姿も良くて俳優などもする有名人。その父親に一臣の声は良く似ていた。声変わりをするまでは。  幼い好奇心は一臣を追い詰めた。『父親の声』の人気に伴って、一臣の声の人気も高まった。そして、一臣の『本当の声』は潰れてしまった。  低くてハスキーな聞き取りにくい、おおよそ高校生とは思えない『オヤジくさい』声。それが一臣の本当の声。どうしても、仕方ない時は短い返事で『親父の声』で話すが、その代償は大きい。  父親の声を求めて集まった友達は一臣の本当の声を聞くと……面白がり、嫌がり、時にからかった。幼い感情は深く一臣に傷を残した。  僕は幼馴染だし、寮も一緒だから部屋に2人でいる時には普通に話している。だけど、一歩外に出るとこれなのだ。  何度も引っ付きすぎだと注意はしたが、一向に直す気はなくて、余計に引っ付いてくるから手に負えない。しかも一臣は甘えたなのだ。

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