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『崩れる均衡』
「うん。一臣は相変わらずだよ」
目の前には殆ど手付かずのディナー。ホテルの最上階のラウンジ。高級ホテルのそこは夜景も奇麗だけど、よく見れば遠くに学校も見えた。
暗くてよくは見えないが、小高い山に這うように建てられた校舎は森に囲まれて閉鎖的に見えた。
向かい合わせに座っている弘敏の皿は殆ど食べ終えていた。
学校生活について聞かれて一臣のことを話した。
「梓はどうなの?」
殆ど手付かずの皿。食欲はあまり無い。園田の噂が最近派手になっているから。副寮長選が近いこともあって、取り入ろうとする輩が増えるのだ。
「僕は、普通だよ。夏バテかな。食欲無いんだ」
夏休みが明けても夏の暑さは相変わらずで、山奥の学校は冷房完備で空調が整えられてはいても暑い。
「それならいいけど。気を付けるんだよ」
「ありがとう」
頷いて微笑むと、「デザートは一臣のお土産にしよう」と言った。
一臣は大のお菓子好き。甘いクリーム系。プリンやシュークリーム、ババロア……いくつでも食べてしまうほどに。
「あれでよく太らないよね」
「他を食べないから。野菜も食べるように言っといてくれよ」
「うーんどうかな。この間の寮長戦でシェフを変えたからね」
和風な献立の多かったシェフから洋食、それもフレンチのシェフへ代わったばかりなのだ。卵焼きが甘くなったのもこのシェフの影響だ。
「相変わらずわがままを通してるんだね」
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