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『崩れる均衡』
「僕の手には負えないよ。誰かいい人がいればいいんだけどね」
今の校内に一臣を手懐けられる様な生徒はいない。誰もが、一臣の『声』を求めているから。
『ブゥゥウウウン、ブゥゥウウウン…』
「ごめん。電話だ」
弘敏はポケットから携帯を取り出すと片手を挙げ出て行った。
ホテル内のレストランは静かで、テーブル同士が離れていて会話は聞こえないものの、高級な雰囲気に満ちている。
1人テーブルに残されると場違いな気もしなくは無いが、毎月のように来ていると馴れてしまうものだ。
明日は休みだからこのままここに泊まってもいいと弘敏は言ってくれる。すでに学校へ帰るバスは無い。電話の相手は仕事相手だろうから、学校まで送ってもらうのは気が引ける。
一臣にいい人が見つかれば何かが変わるかもしれない。
激化する寮同士の争いだって、一臣と園田がこれまでの寮長同士よりも対立しているせいもある。ストイックで他を寄せ付けない雰囲気を持つ一臣とワイルドで誰をも惹き付ける園田。全く違うタイプの2人を慕う生徒たち。その生徒同士の対立もあるから手に負えないのだ。
一臣と園田が特定の相手でも作れば落ち着くのかもしれない。一臣は僕と噂があるからそれでいいとしても、園田は……。
どうして未だに僕を誘うのか分からない。
園田の場合、都合が良くて気に入れば何度でも相手をする。今何人の相手がいるのかは知らないけど、僕がその誘いに乗っても園田の素行は収まらないだろうと安易に想像できた。
「梓。ごめん。仕事に戻らなくちゃならなくなった。今夜はここに泊まって。明日の朝、送るから」
「泊まるのはいいけど、帰りはバスで帰るよ。買い物してから帰るから」
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