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『崩れる均衡』
「悪いね。また埋め合わせはするから。デザートは明日の朝持って帰れるように伝えておくよ」
弘敏は立ち上がると僕を促して会計を済ませた。ホテルのフロントには寄らずにそのまま部屋を予約してくれて、鍵を持ってエレベーターまで向かった。
「一度外に出るよ。向かいのコンビニで飲み物買ってくる」
一緒にホテルを出て弘敏は自分の車のキーをホテルマンに渡した。
「来月には一臣も一緒に連れておいで」
「そうだね」
先月は一臣も来たけど、今日は間近に迫った副寮長選の対応に忙しそうだった。手伝うとは言ったけど、一人のほうが捗るからと断られてしまった。
静かに入ってきた車に弘敏は乗り込む。運転席側に僕が回ると窓を開けて、「じゃあ、またね」と手を振った。
「弘敏。ごちそうさま」
笑って弘敏は去っていった。
僕は向かいにあるコンビニ行こうと踵を返して顔を上げた。
そして、そのコンビニの大きな窓ガラス越しにこちらを睨みつけるように見つめていた人物と目が合った。
その視線は外されることなく近づいて来た。
僕はその場を動くことも出来ず、ただ立ち尽くしていた。
「今夜の相手はお前だ」
「……園田」
腕を取られてはっとしてその手を振り解いた。
「バカなこと言わないでよ。何で僕が園田を相手しなくちゃならないんだ」
「どうせあぶれたんだろう? 相手はさっきのやつか。まあまあ金持ちそうだったな」
園田は車が走り去った方角を見て、僕を振り返ると、「振られたもの同士仲良くしようぜ」と再び僕の手を取る。
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