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『崩れる均衡』

 痛みは感じない。だけど違和感は感じる。足を持ち上げられているせいで、その動きも見える。浅いところで動かされて、徐々に奥に入り込んでくる。  いったん指を抜いた園田が自分のズボンのポケットを探って、何かを取り出した。文房具の水のりのような小さな容器。その蓋を口で開けると、中身を今まで指が入っていたところに垂らした。 「冷たっ……んっ……」  もう一度指が入って広げるようにしてその容器の中身が更に足された。ぬめりのあるそれを奥に塗りつけるようにして指が動くとグチュグチュと音を立てた。 「厭らしいな。まるで濡れてるみたいだ」  卑しく笑いを含んだ声に耳を塞ぎたくなった。だけど、足を掴んでいる手が離せない。何かに縋るようにギュッと足を掴んでいた。 「うぁあ……んっ」  指が増やされた。浅いところから奥の方までを掻き回される。  違和感ばかりが大きくなって、このままならやり過ごせそうだと力を抜いたと同時に、「ああっやぁああっ」っと電撃が走ったように反応して声を上げてしまった。  内壁がキュウッと縮み、園田の指を締め付けて、身体が勝手に跳ねた。そして甘い声が洩れる。 「ここね」  園田が言って余計にそこを刺激する。甘い声が洩れるばかりで抵抗できない。  擦られるたびにビクンビクンと身体は跳ねて、触られてもいないのに自身から先走りが溢れ出す。それが後ろまで伝って行き、余計に厭らしい音を立てる。 「ああっ……止めっ……」 「止めない。梓の中、熱くなって俺の指、締め付けてる」  梓……。名前を呼ばれただけで身体がビクンと反応した。

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