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『戻せない現実』

 言いかけて止めた。きっと一臣言ったら余計に険悪になるだけだから。 「それより、僕、歩けそうにないからおんぶして……」  一臣は視線を彷徨わせてから、「ほら」と背中を向けてしゃがみ込んだ。 「馬鹿な事すんなよ」 「うん。馬鹿でもいいんだよ。僕がそれでいいって思ったんだから」  幸せだって、思えたんだから。胸が締め付けられるほどの愛しさをもらえたんだから。 「まさか弘敏じゃないだろうな?」 「絶対違うから安心して」  ゆっくりと一臣が歩き出した。寮まではすぐそこだ。部屋も一緒。 「一臣……部屋、降ろしてくれたら、それで……」  一臣の背中に揺すられて眠気が襲ってくる。  疲れた。  目が覚めると自分の部屋のベッドに寝ていた。今日が休みでよかった。 「……一臣……重たい」  背中から腕が回っていて、横に寝ていたのは一臣。昨日、そのまま寝てしまったようだ。 「……ん? ああ、あず……おはよう」  目を擦りながら一臣は起き上がる。一臣も昨日の夜に着ていた服のままだ。 「大丈夫?」 「……ん。大丈夫」   返事をして横に座る。時間を確認すると9時前。寝すぎでだるいからかとも思ったけど、これは違うだるさだと気が付いて、昨日の痴態を思い出した。

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