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『戻せない現実』
一臣の聞いたのはそっち事らしい。
「なんでここで寝てるの一臣」
「お前が俺のシャツを離さなかったから」
「え?」
「ここに帰ってくるまでにお前が寝てしまって、降ろしても離れないし、シャツ掴んだままだったから」
「ああ……ごめん。よく覚えてないや」
謝ると一臣は「別にいいけど」と言って部屋から出て行ってしまった。バタンっという音を聞いて、シャワー室に入っていのだと理解した。
ベッドに体育座りに座ってその膝に額を付けた。
園田。どうしただろうか。ホテルの部屋から出るとき何も言わなかったし、引き止められもしなかったけど。
やっぱり一晩だけの、その場しのぎの相手にしか過ぎなかったのだろうか。
期待、しないわけじゃない。
『極上』と、園田は言った。それは僕に感じてくれた証。
それだけでも……僕は、好きな相手に快感を与えられただけで……『極上』と言ってくれただけで、僕は幸せだ。
幸せなはずだ。
なのになんで昨日よりも、昨日までよりも胸が苦しんだろう。
膝を引き寄せるように抱き締める。
腰は痛いし、そこもまだ違和感が残る。腕も筋肉痛のような鈍痛がする。
これは証。昨日の残像。
園田のあんな顔……声、初めて聞いた。初めて見た。
だけど、それは僕だけのものではなくて、僕だけが知っているものではなくて……園田の馴れた仕草に胸が痛んだ。
園田の戸惑うことの無い仕草に苦しくなった。
そして、自分に一番腹がたった。
「…………テツ……」
呼べばよかった。最後だから。最初で最後だから。それぐらい、許されたかもしれなかったのに。
呼んで……みたかったのに。昔のように。
『……アズ』
昔は呼び合っていたのに。あの頃に戻れたら、今は違っていただろうか。
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