39 / 139

『浸水する関係』

 各寮長会のメンバーは生徒とは別に並んでいた。  僕の横には相良が立っている。 「どうせ猛じゃないかな」 「俺じゃないって。園田から聞いてる」  後ろに並んでいたA寮の副寮長をしていた猛が言った。 「何? 嫌われたの?」  振り返って猛に話しかけると猛は、「違うっての」と言い返した。 「誰にするか聞いてるのか?」 「それは聞いてないけど、俺は荷物を片付けとくように言われてるから」 「誰にするんだろうな」  相良は長々と話を続けている学園長を無視してその横の寮長を見ていた。  長い学園長の話が終わった。寮長達によって統治されている中で学園長の地位なんて軽く、話をする機会も少ない。だから、たまに行われる全校集会では長々と話をするのだ。しかし、その学園長の話よりも生徒の注目は1位を取ったA寮の副寮長指名だ。  ざわざわと騒がしい会場。  司会を努めるのはC寮の元副寮長。 「この度の副寮長選はA、B、D、Cの順に行われます。まずは、A寮長から」  指名を受けて園田が前に出てきた。 「A寮の副寮長はB寮、桃香梓を指名する」  園田は壇上に上がってからずっと僕を見つめていた。そして、視線を逸らせる事無く僕の名前を呼んだ。  断る権利は与えられていない。そして、その後の寮長にはそれを覆すことは出来ない。 「梓っ。大丈夫か?」  横にいた相良が話しかけてきて、「う、うん」と返事をした。 「顔色悪いぞ」 「大丈夫。ちょっと驚いただけだから……それより、一臣が呼んでる」  次に指名をするのは一臣だけど、一臣はいつもなら僕を呼ぶのに相良に手招きをしていた。それは、僕がもうA寮の副寮長に指名されたからだ。  足元がぐらついてそこに立っているのがやっとだった。  一臣が誰を指名したのか、D、C各寮が誰を指名したのか、僕は全く……全てのことが耳に入っていなかった。  これまで一度だってA寮に行ったことは無かったし、来られたことも無かった。 「梓。行くぞ」  相良に促されて体育館を後にした。その後を一臣が追ってきて、後ろから肩を掴まれた。 「取り戻してやる」  低く聞き取りにくい声が耳元で囁かれた。

ともだちにシェアしよう!