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『浸水する関係』

 頷いて返事をすると一臣は肩を叩いて追い越していった。  次のテストまで。その間だけ我慢すれば帰れる。ただ、それは今回のテストよりも遥かに高得点をたたき出す必要がある。そして、園田が了承すれば。これまで例がないわけでは無い。だけど、そうなると寮生には大きな負担になる。  一臣のわがままと取られる可能性が高い。だって、一臣は僕にべったりなんだと回りは思っているのだから。  部屋に帰ると一臣は、「あいつ、何考えてんだよ」と怒りを露にした。 「僕にも分からないよ」  園田が何を考えて僕を自分の寮の副寮長に指名したのか。寮長は他の生徒の部屋より格段に広い。それは会議や生徒からの相談を受けたりするということもあるけど、それをサポートするために副寮長と同室なのだ。 『好きなやつ指名してヤリまくり』  猛が言っていた言葉を思い出す。  園田は……それほど僕に執着してるってことだろうか……。 「か、一臣。いいよ。僕は」 「いいって何だ?」 「僕は園田のところに行くから。取り戻さなくていい」 「それじゃ……」  一臣が言いかけた言葉を飲み込んだ。一度床を見つめてから顔を上げて、「取り戻させてくれ」と呟いた。 「そんなこと言ったら、みんな本気にしちゃうよ?」  僕と一臣が恋仲だと。 「思わせておけばいい」  それは誰に対してなのか、一臣は眉間に皺を寄せて苦々しく呟いた。 「僕、部屋を片付けてくるよ」  一臣を残して自室に入った。  園田と同室。どうしたらいいだろう。もう、逃げ帰るところなんて無い。  部屋に帰っても園田がいる。これまでのように校内で会わないように避けても、寮に帰れば捕まえられる。 「何考えてんだあいつ」  呟いて締めたドアに背中をつけて座り込んだ。

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