47 / 139
『新地と譲歩』
園田は僕の頬を撫でた。ゾクリとする。指先が唇に触れる。
「外出する時は声をかけるよ。寮長様」
僕はその手から逃げて自分の部屋に戻った。
部屋の片付けにノロノロと取り掛かる。一臣にいつも、『ごちゃごちゃした物を片付けろ』と怒られてたけど、こうやって引越しをするとなると小物が多いと面倒だ。
一臣にはガラクタにしか見えないらしい、モビール。一目惚れしたガラス製のアンティークランプシェード。壁に設置できる飾り棚。最近集め出したアメリカ雑貨のガラス製のアンティークのマグカップ。
他にも雑貨はいっぱいあって、片付けるのも大変だったけど、元に戻すのも大変だ。
それに、器用じゃない。
「このランプシェードどうやって付けるんだったかな」
絡まってしまったモビールを振ってみても余計に絡まるだけだった。
何せ、ネクタイも結べないのだ。
せめてランプシェードだけは付けたい。
部屋のドアを開けると園田はさっきと変わらず雑誌を捲っていた。
「ねぇ、園田って器用?」
「ああ? 別に不器用ではないと思うけど?」
「悪いんだけど……」
と言いかけて気が付いた。園田に入るなと制したことを。
「やっぱりいい」
パタンとドアを閉めた。部屋中に広がる雑貨。それに梱包材。足の踏み場も無いほどだ。
「僕、今日寝れないかも」
飾り棚を設置して大事なカップを並べた。その横にも雑貨を並べて……。
ベッドの上に上って、天井に手を伸ばして設置されている蛍光灯のカバーを外した。
ともだちにシェアしよう!