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『新地と譲歩』

 園田は僕の頬を撫でた。ゾクリとする。指先が唇に触れる。 「外出する時は声をかけるよ。寮長様」  僕はその手から逃げて自分の部屋に戻った。  部屋の片付けにノロノロと取り掛かる。一臣にいつも、『ごちゃごちゃした物を片付けろ』と怒られてたけど、こうやって引越しをするとなると小物が多いと面倒だ。  一臣にはガラクタにしか見えないらしい、モビール。一目惚れしたガラス製のアンティークランプシェード。壁に設置できる飾り棚。最近集め出したアメリカ雑貨のガラス製のアンティークのマグカップ。  他にも雑貨はいっぱいあって、片付けるのも大変だったけど、元に戻すのも大変だ。  それに、器用じゃない。 「このランプシェードどうやって付けるんだったかな」  絡まってしまったモビールを振ってみても余計に絡まるだけだった。  何せ、ネクタイも結べないのだ。  せめてランプシェードだけは付けたい。  部屋のドアを開けると園田はさっきと変わらず雑誌を捲っていた。 「ねぇ、園田って器用?」 「ああ? 別に不器用ではないと思うけど?」 「悪いんだけど……」  と言いかけて気が付いた。園田に入るなと制したことを。 「やっぱりいい」  パタンとドアを閉めた。部屋中に広がる雑貨。それに梱包材。足の踏み場も無いほどだ。 「僕、今日寝れないかも」  飾り棚を設置して大事なカップを並べた。その横にも雑貨を並べて……。  ベッドの上に上って、天井に手を伸ばして設置されている蛍光灯のカバーを外した。

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