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『投石』
「……え? 今頃?」
朝、教室で一臣にネクタイを結んでもらっていると、後ろから抱きついたまま一臣が、「今日、転入生がやってくる部屋はとりあえず俺と一緒」と言った。
何でも両親が仕事で海外に行くらしく、こんな半端な時期に転入してくるらしい。編入試験は高校からの外部入学同等の成績が求められる。初等部からのエスカレーター式の学校だから途中入学は枠が少なく壁は厚い。
ましてや一臣と同室になるほどだから成績優秀なのだろう。
「で、迎えに行くの?」
一臣は頷いて、「授業があるから職員室まで案内するだけだ」と呟いた。
「名前は?」
「比嘉響(ヒガキョウ)。数学の後藤の甥っ子らしい」
「へぇ。どこのご子息?」
からかう様に言うと一臣は嫌そうに眉間に皺を寄せてから、「お前が言うな」と結び終えたネクタイをギュッと締めた。
「苦しいよ。一臣と同室って大変だね。可愛がってあげなよ?」
何せ。僕以外とは話ができないんだから。相手が理解してくれるならいいけど、喋らないことで押しつぶされなければいいけど。
「別に一時的なことだ」
「僕は帰らないって言ったでしょ。仲良くできそうならいいじゃない」
その子を副寮長にしてしまえばいいのに。この学校の生徒よりも、何も知らない編入生の方がフィルターがかかっていない分一臣を受け入れてくれるかもしれない。
「可愛い子だといいね」
一臣は益々怪訝な顔をして自分の席に座った。
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