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『投石』
行間の休み時間に出て行った一臣は昼食前に帰ってきた。
で……一臣は興奮していた。
普段喋らないし、表情も崩さないから端から見れば変わりないように見えるけど、一臣は転入生の比嘉響君に……一目惚れでもしたようだった。
一臣がつい地声で話しかけてしまったと嘆いていたから相手は気になる。
「梓も見れば分かる」
「へぇ~。一臣が誉めるなら一度会ってみたいね」
これなら一緒に生活しても大丈夫そうだと一安心した。相手が一臣にどういう印象を持ったかはまだ分からないけど。一度会って確かめてみる必要はありそうだ。
興味本位で近づいて傷を負うのは一臣の方だろうし、一臣は人の感情に疎いところがあるから心配だ。
「お前は?」
「僕? 僕は大丈夫だよ」
引越しの手伝いをしてくれてから一度も園田は部屋に入って来なかった。無理強いもしないし、律義に約束を守ってくれている。
園田は朝ごはんを食べないようで、僕が朝食を食べに行っている間に学校に行っているから朝会うことは無い。放課後は誘われなければ一緒にはならない。
寮長会を兼ねての夕食を一緒に取るくらいだ。
「仲良くは無いけど、それなりにやってるよ」
「梓」
急に声が聞こえてビックリして顔を上げると廊下に繋がる窓から園田が顔を出していた。
「ちょっと付き合えよ」
「まだ食べてるんだけど?」
机の上には食べかけの弁当。
「時間なくなるだろ」
「それは園田の都合でしょ。僕はお腹すいてるんだから」
わざと箸をゆっくりと動かす。向かいに座っている一臣は食べ終わっていて園田を睨みつけている。
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