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『逃避』

 嗚咽を漏らしてしゃがみこんだ僕に園田は、「ほら、猛が来るまでに着替えろよ」と強引にマットに座らせて下着とズボンを履かせた。  泣きじゃくる僕に、「悪かったよ」とぶっきら棒に謝って頭を撫でた。 『テツ~。大丈夫か?』 「ああ。早く開けてくれ」  鍵をガチャガチャと弄る音が聞こえて、「具合が悪い振りしとけ」と呟いて扉の方に行くから、「馬鹿っ。置いていくな」と引き止めた。 「何だよ」  引き返してきた園田に、「シャツ。ボタンが無くて留められないし……痛くて歩けそうに無い」と耳まで熱くなるのを感じながら園田に告げた。 「………のにな」  なんと言ったか聞き取れなかった。  マットから降りるとその振動でそこが痛む。まだ中に何かが入っているような、痛みに顔を顰めると園田が背を向けてしゃがんだ。 「おぶってやる」 「……うん」  ここにいつまでもいるわけにはいかないから素直に従った。 『ガラガラ……』  音がして体育倉庫のドアが開かれた。 「おお。無事だった」  猛の声が聞こえたけど、僕は園田の肩に顔を埋めて返事はしなかった。 「寮の企画で使う備品の確認に来たんだ。勢いよく締めたら鍵がかかって……」 「ドジだな。梓はどうしたんだ?」 「中がかび臭くて気持が悪いんだと」  体育館倉庫から出るとようやく新鮮な空気を吸い込むことができたけど、泣き腫らした顔を見られたくなくて顔は伏せていた。

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