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『逃避』

「猛。鍵を返しといてくれ。俺は梓を連れて帰るから。ああ、梓のカバンが教室に残ってるから持ってこい」  僕を背負ったまま自分のカバンを拾って、「人使いが荒い」と言われながら猛と別れた。  おぶわれているからシャツのボタンが飛んでいるのも分からない。ただ、顔は伏せていても赤い髪のせいで、僕だとばれてしまう。  寮付近まで戻ると、「降りるか?」と聞かれた。  首を振って拒むと、「何だよ。見せ付けるのか?」と笑った。  見せ付けるって何だ。  見せ付けるような関係じゃないのに。 「裏から入るか」  園田は正面ではなく、寮監などが使う裏口に回った。そこからは一般生徒の出入りは禁止されているから生徒に出会う確立は下がる。 「夕飯食うか? 寮長会も……」  首を横に振った。  ゆっくりと歩く園田の首に回した両手に力を入れなおした。もっと、ゆっくり歩いてくれたらいいのに。  同じ歳なのに園田の背中は大きくて頼りがいがある。一臣にも背負われたことが何度もあるけど、園田の方がいいと思えるのは恋心だろうか。  目を閉じて園田の短い髪に顔を埋める。 「くすぐったい」 「……うん」  頷いても止める気になれない。  もう2度とこんなことは無いだろうから。  園田に背負われるなんて無いだろうから。  こんなにも優しいのに、僕のものじゃない苦しさに胸が熱くなる。

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