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『逃避』

「薬いるか?」 「……いらん」  いらないからこのまま一緒にいてくれたらいいのに。  強引で横暴な態度じゃなくて、優しく甘やかしてくれたら……僕は好きだと言えるかもしれないのに。  そして、振られても心にしまうことができるのに。 「一臣に会いたい」  一臣は甘やかしてくれる。虚勢を張らなくていい。傷ついてる時は余計に会いたくなる。 「それは自分で何とかしろ」  エレベーターで4階まで上がって部屋のドアを開けるとその背中から降ろされた。 「大嫌いな俺といるより一臣かよ」  園田は、「じゃあな」と言って踵を返して部屋から出て行ってしまった。  大嫌いと言っても突き放されるなら、好きだと告げればよかった。  唇を噛み締めてその場に座り込んだ。  シャツのボタンは飛んで胸まで露になっている。暑いから下着は着ていなかった。  園田は夕飯を食べに行ったんだろうか、寮長会も……。  ポケットから携帯を取り出し一臣に電話をしても一臣も忙しいのか電源が落ちていた。 「…………もう嫌だ」  呟いて足の間に顔を伏せた。

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