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『焦れる』
「一臣んとこには可愛い奴が入ったらしいし、いい加減あっちに帰るの諦めろ」
「別に帰りたいなんて言ってないよ」
「そうか? 一臣達は躍起になってるようだけど?」
「ちょ、やめ……」
シャツの裾をズボンからたくし上げる園田の手を止める。
「俺もまだお目にかかってないが、美人らしいな」
「か、一臣は気に入ってるみたいだよ」
小声で話しながら、園田の手首を掴んで制する。だけど、園田がグッと身体を押し付けてくるから逃げることができない。
「へぇ。それで寂しかったのか?」
「そ、そんなことはないよ。僕にはいくらでも相手がいる」
「そっか、まあ、大嫌いな俺じゃなくてもいい相手はいるんだ」
フッと園田の力が抜けてほんの少しだけ身体が離れた。
逃げなきゃとは思うのに……かわして離れなくちゃとは思うのに……何で言うことをきいてくれないんだ。
園田の手首とシャツを掴んだ手が離せない。
『お前なんか大嫌いだ』
そう言ったのは僕なのに。
「セフレに求められても、『大嫌い』なんて言われたのは初めてだよなぁ。さすがにへこむわぁ」
園田は苦笑いで僕を見下ろして、シャツを掴んでいる僕の手を掴んだ。
セフレ……改めて言われる僕との関係。それだけでしかないと、突き放されているのを感じる。
「そ、それは、園田が嫌だって言ったのに、無理やり……」
「だから。やらせろよ」
見上げた園田は怒っているようにも見える。傷ついたと言いながら、殊勝な態度は微塵も無い。
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