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『求める』
腕を振り回して抗うと、ドアや壁に当る。そのせいでよろけてしまうが、園田が手を伸ばして支えた。
「梓。そうじゃなくて」
さっきまでの意地悪な声音とは違う。落ち着いた柔らかい声に、こっちも徐々に落ち着きを取りもどす。
「何が違うんだっ……お前なんかっ、お前なんか……」
「梓っ。ちょっと落ち着け。お前、熱があるんじゃないか?」
僕が抗うのに園田が機嫌悪く少し声を張った。その声に驚いた。
「はぁ?」
園田の大きな手が額を覆った。
熱? 額を覆われて視界も遮られる。
「寒気は無いか?」
言われていることはいまいち理解できなくて、顔や首を触る園田にされるがままになる。
「………熱?」
手を離されて、「だるいのは熱があるからだろ。いつからだ?」と顔を覗き込まれた。
「熱なんて、気が付かなかった」
「髪。濡れたまま寝てたのか?」
赤い髪を撫でられて、「いつもだけど」と返事をすると、「そこに座れ」とソファーを指差して自分はポケットから携帯を取り出した。
ソファーに座ると気持ちが少し落ち着いた。確かに頭はぼうっとしている。どのくらい熱があるのか分からないけど、言われれば寒気もする気がする。
ソファーに座って見上げた園田は電話の相手に、「梓が熱を出したから、急いで来い」と言って、その後もボソボソと喋って、自室に入って行った。すぐに戻ってきて、手にしているのは体温計。
電話は繋がったままらしく、まだ喋っている。
渡された体温計で熱を測った。
「……何度?」
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