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『求める』

 すぐに計測されるタイプらしくて、「37度6分」と返事をすると、体温計を受け取って、電話の相手に話して、しばらくしてから電話を切った。  熱があると分かると余計にだるく感じるのはなぜだろう。 「ちょっとここで横になってろ。すぐに相良達が来る」 「相良達?」  何で相良を呼ぶんだ? 達ってことは他に誰か来るってことだろうか……。  それに、相良はB寮だからA寮への入寮は基本的には禁止されているはずだ。  園田は自室に入って行き、タオルケットを取ってくると僕にかぶせた。  顔辺りまで被せられてフッと香るのは園田の香り。 「どこか行くの?」  離れていく園田のズボンを慌てて手で掴んだ。 「寮長会ってさっきも言っただろ」 「そっか」  そうだった。園田はそれで僕を呼んだんだった。思い出して掴んだ手を離した。 「俺は他に寝るから、介抱してもらえ」 「え?」  園田を見上げると、「相良達が来るだろ」と言った。 「他に寝るって?」 「そんなのどこにでもある」  園田はそう言って部屋を出て行ってしまった。  そんな相手はいくらでもいる。僕が相手をしなくても、園田にはいくらでも相手がいる。分かりきっていることなのに、どうして傷ついて落ち込んでしまうのだろう。  首まで掛けられたタオルケットを顔の半分まで引き上げる。  園田の匂いのするタオルケット。普段使っているものなのだろう。 「ずるいよね」  たまにこうやって優しいなんてずるい。  出て行くといいながら、相手がいると言いながら、僕を包んで逃がさない。  抱き締めてさえくれないのに、こうやって香りだけは残して、僕を縛り付けていく。  帰って来てと、ここにいて欲しいと、相良達を呼ばなくていいと求めたら……園田はきっと僕を突き放すだろう。  恋愛感情が入ると途端に冷める園田なのだから。  追いすがれば突き放される。曖昧で、どっちつかずで、好きじゃないという関係が一番落ち着いている。  だけど、徐々に欲は深くなる。 「…………テツ……」 タオルケットを頭まですっぽりかぶると目を閉じた。

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