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『出会い』
足を止めた。急ぐ用事でも無いからいいかと。
「桃香のやつどうにかしてもらえませんか?」
眉間に皺を寄せて、「僕ら試験勉強よりも部活を優先したいんですけど」と訴えてきた。
「僕に言われても一臣がしてることだから」
「でもっ、桃香は梓さんを取り返すのに躍起になってて。この間も点数が悪かったから指導が厳しくて」
「僕に言われてもねぇ」
僕に訴えてもどうしようもない問題だけど、B寮は僕を取り返すって言う宣言を出してるから無関係でもない。
「梓さん、桃香に何とか言ってくださいよ」
「それって、僕にメリットはあるの?」
僕は帰る気は無い。だから、一臣に進言する気も無い。成績が悪いのは自分達の努力不足。足を引っ張っている張本人だという自覚が足りない。
「でも、桃香と付き合ってるんでしょ? それとも園田?」
「どっちなんですか?」
詰め寄られて、「どっちも」と意味深に返事をして、「でも、どっちとも付き合っては無い」と付け足した。
「二股?」
「どうかなぁ。僕はどっちでもいいんだけどね」
腕を組んで上目使いに視線を上げると、長身の生徒は頬を赤らめた。
こいつら……僕のファンなのか。
僕に寮に帰って来て欲しい派の生徒のようだ。
「どっちも捨てがたいよね」
他の3人にも視線を投げる。
「僕がいなくても一臣は大丈夫でしょ?」
「でも、喋らないし……相良が……」
「僕に取り入る暇があるなら、勉強したら?」
4人は苦い顔をして僕を睨み付けた。
「僕は頭が良くて真摯な人間にしか興味は無いよ。第一、君たちの名前も知らないのにどうやって、一臣に頼んだらいいんだろうね? 僕たちを呼び捨てってことは先輩なのかな?」
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