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『出会い』
校内で迷った? 確かに入り組んだ造りはしているから、馴れないと迷うことは多々あるだろう。それで気が付いた。馴れないほどしかこの学校に在籍していない相手に。
「ごめんなさい」
「何謝ってんだよ。ったく。迷っただぁ?」
急いで乱れた服を調えた。
「すいません。まだ編入したばっかりで……道を教えてもらえたら帰れると思うので……」
「編入? お前、比嘉か?」
「はい。比嘉、響です」
相手は突然名前を呼ばれて驚いているようだ。
「えっ? 編入生の比嘉響君?」
やっぱり。園田を押し退けるようにして顔を出した。
「わっお前、何、出てきてんだよっ」
慌てる園田に中に押し戻されそうになるのを、何とか顔を出した。
「だって、比嘉君見たいっ」
Tシャツの上からシャツを着込みながらその場に園田を残して比嘉君肩を掴んで廊下に出た。
「ちょっ、梓っ」
「比嘉君。行こう」
「梓っ」
園田が呼び止めるけど、僕は「鍵はお願いするよ。またな~」と手を振って比嘉君を急かしてその場を離れた。
僕と同じくらいの身長の彼は顔も整っていて、噂どおりの美人だった。
一目見て、園田に近づけたくないと……園田の好みだと直感した。
誰もいない校内を2人で寮に向かって歩く。後ろから園田の追いかけてくる気配は無い。
「さっきの人いいんですか?」
少し耳を赤くして言う比嘉君に、声を聞かれたんだなと直感した。
「いいの。いいの。どうせ寮に帰れば一緒なんだから」
一緒にいるだけの相手なんだから。僕が逃げ出しても追いかけても来ないほどの関係しかないのだから。
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