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『出会い』

「B寮は勉強会までやって必死になってますけど、無駄になるって事ですか?」  一臣が一生懸命になるのはいいけど、周りを巻き込んだら歪が生まれる。昨日、僕が一臣を呼んでしまったことも一臣の心配に拍車をかけているだろう。 「まあ、そうなるね。別の副寮長を指名すれば解決するだけなのに。響ちゃんがやればいいのに」  一臣という逃げ場を失えば僕は変われるだろうか。一臣が響ちゃんと恋人同士になれば、僕は甘える場所が無くなる。  窮地に立たされれば僕は……。  一臣は明らかに響君を気に入ってる。ただ、それが親愛なのか恋愛なのかは僕には分からない。  まだ2人でいるとこを見たこともないから一臣の反応が分からない。響君が美人だというのは見た目ではわかる。今話してみて素直な子であることも分かった。  校舎を出て寮に向かって歩いていると、寮の入り口に一臣を見つけた。 「……一臣も満更でもないってことじゃないのかな。美人は目の保養にもなるしね」  立ち止まって、つられて止まった響君を振り返った。  一臣は、どう思っているんだろう。  響君の顎を指先で突いて、その指先を視線の先に持ってきた。響君は何をされているのかと指先を視線で追っている。背中を向けている一臣には僕が響君の顎を持ち上げているようにしか見えないだろう。  肩をぐっと後ろから引かれた。 「見つかった」  一臣を振り返らずに響君を見つめたまま、一臣の胸に自分の背中を預けた。眉間に皺を寄せた響君。  君も案外鈍いのかもね。 「僕は道案内をしただけだよ。一臣。ねえ? 響ちゃん」 肩をつかむ一臣の手が痛くて、その手を軽く叩くと手を離された。  一臣に言い訳のように響君は話しているけど、一臣は機嫌が悪いようだ。  一臣の胸から背中を離して、「じゃあ、僕は帰るから」と手を振った。  置いてきぼりにした園田のことも気になる。  今頃誰かを抱いているのかもしれない。 「梓。ちょっと」  一臣は僕を追いかけてきて、背中に抱き付くほどに引っ付くと、「話がある」と言って付いてきた。 「僕には無いよ。僕より、響君と話すことがあるんじゃないの?」  一臣を突き放そうと、振り返って、響君に手を振ったが、一臣は放れる気が無いらしく、僕についてきた。

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