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『一臣の恋』
「俺は、自分を見失いそうだ」
響君を残して僕についてきた一臣は中庭に置かれたベンチに座ってそう呟いた。
「どうしたの?」
掠れて聞き取りにくい一臣の声。横に座って首を傾げた。
「……比嘉、どうだった?」
「どうって? 美人だね。でもまだ色気は無いかなぁ」
僕と園田の情事に充てられて真っ赤になって俯くほどの純情さだ。
「色気って……まあ、無いな」
それはまだ無垢で子どもっぽいとも取れる純粋さを持っているということ。
「僕とは違うよ」
呟きに一臣が顔を上げた。
「お前も、同じだよ」
「慰めは要らない。僕は………知ってるから」
抱かれることを知っている身体が純粋で無垢なはずが無い。園田を騙して、自分を偽って、女王様のふりをする。
あんな純粋な素直さは持っていない。響君はかわいい。少し話ただけでもそれはすぐに分かった。
一臣が可愛いというのも分かる。側に置いて可愛がりたくなる。
「知ってはいても、心は違うだろ?」
一臣にじっと見つめられる。
一臣は僕の何を知っている。一緒に過ごしてきた時間は長い。お互いのことはよく知っている。
「………心は……」
心は一途だ。けど、裏切ることは簡単だ。
「一臣は響君を好きってことかな?」
「分からん。お前が言うようにあいつは色気が無いからな……ただ」
純粋で無垢なものだから、自分が汚すことが躊躇われる。そして、それを他人に奪われるのも許せない。
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