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『一臣の恋』

 自分を見失って襲ってしまいそうだということだろうか……。 「ただ?」 「眺めておきたいとは思う」 「……一臣って……枯れてるんの?」  普通は自分で手折りたくなるものじゃないだろうか。好きな相手ならなおさら、自分の物にしたいと思うんじゃないだろうか。 「枯れてる?」 「え? 響君とやりたいってことじゃないの?」  襲ってしまいそうだってことじゃないの? 「そんなことは無い」 「え? じゃあ、何で自分を見失いそうなわけ?」 「あいつを見てると……イライラする」 「嫌いなの?」 「ああ。あいつを見ていて動揺する自分にイライラする」 「………馬鹿じゃないの……それって、恋だと思うよ」 「恋?」 「一臣……襲っちゃえばいいよ」  その声を聞かせてあげればいいよ。きっと響君は応えてくれる。 「響君……誰かに取られちゃうよ?」  美人で色気の無い響君。飢えた学生の中にあってそれは裸同然だ。初等部から閉じ込められた男子学生なんてタガが外れれば何をするか分からない。  色気を身に纏って相手をあしらう事を覚えなければあっという間に手折られてしまうだろう。それか誰かの庇護に入るか。 「…………ああ、そうか」  一臣は一人納得して、「先に帰る」と言ってベンチから離れて行った。  ちょっと煽りすぎたかなぁ。一臣は何か納得してたけど、どう納得したのかが分からなかった。  一人取り残されて固いベンチに仰向けに転がった。  従兄弟で幼馴染の恋に気が付くなんて思ってもみなかった。  一臣の恋を知るなんて。  目の当たりにするなんて。  僕の恋は……もう間に合わないのに……。  気がついてから時間が経ちすぎた。もう、素直になんてなれない。諦める決心がついた時が、僕の恋の終わり。告白の時。  一臣の恋は応援する。僕が守る。だから、もう少しだけ夢を見させて。

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