97 / 139
『発展』
帰っても特にすることも無いから。
「一臣に聞いてみるけど、きっと寮に残る。園田は?」
「俺は、あちこち誘いがあるからな。自由にさせてもらう」
園田はモテる。それは分かっている。あちこち誘いがあるっていうのはそういうことだろうと推測できた。
「さっきの話。お前、身を固めるのか?」
加害者は僕の崇拝者だった。『園田とは遊びっぽいけど、桃香とは本気っぽい』からと、僕をB寮に戻さないように、今の同室者である響君を襲い、B寮のテストの点数を下げるよう脅しをかけたのだ。
響君一人が点数を下げたところで微々たるものだろうけど、嫉妬や妬みが積み重なったんだろう。それに一臣が躍起になっていたせいで余計に追い詰められたんだろう。
相良からお前らが特定の相手を作ればいいって言われたけど、そう簡単なことじゃない。
だけど、今回の事件の一因は僕にもある。
「身を固めるって何? 僕は自由でいたいんだよ」
園田か一臣かという選択は無い。だけど、償いたい気持ちはある。特定の相手を作れば今回のような事件はなくなるだろう。
一臣や園田、僕もモテる。恋する相手に恋人がいれば諦めもつくだろう。
「園田こそどうなの?」
きっと自由な園田は嫌がる。誰かに縛られることを。だからきっと、『自由でいたい』と……。
だけど、園田の特定の相手あ誰になるのかは知りたい。
「好きなやつには縛られたい」
「え?……園田好きなやついるの?」
血の気が引くのを感じた。指先から力抜けるのも感じる。自分で聞いておきながらその返事が怖くて、聞きたくなくて、逃げ出したくなった。
「別に」
園田は踵を返すと寮に入って行った。
どっちつかずの返事に戸惑いながら僕はいつまでもそこに立ち尽していた。
ともだちにシェアしよう!