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『決断』
『俺の声……気づいてたって』
「へえ……で?」
一臣の本当の声に気が付いていたってことだろう。普段は出さない『本当の声』。僕は魅力的だと思うけど、一臣にとってはトラウマでしかない。だから、それを受け止めてくれる存在ってのは大きな意味がある。
まして、そっちの声に気がつくってことは、それだけ一臣を見てくれてるって事だ。
『で?……ああ、今点呼』
「いや、そういうことじゃなくて。それで、響ちゃんは?」
『部屋で待ってる』
そういうことじゃなくて、2人の関係に進展があったかどうかを聞きたいのに、一臣の話じゃよく分からない。
一臣も鈍いほうでは無いし、学園の生徒には手を出してないけど、それなりに経験だってある。
「待ってるって、そういうこと?」
今から抱くから待たせてるってことだろうか?
『どうかな。鈍いみたいで……』
携帯が途切れてしまった。一臣は点呼中と言っていたから電波の悪いところに入ってしまったのかもしれない。
明日から連休だし、一臣がその気なら、今日か、明日にはそういうことがあるってことだろう。
一臣を受け入れたってことは……。
部屋から出て、まだソファーに座って作業をしている園田に、「一臣くっ付いたみたい」と告げた。
別に園田に報告する義務は無いけど、副寮長を取り返す云々のことがあったから、一応伝えた。
「じゃあ、次の副寮長はあいつになるのか?」
「そうじゃないかな……。電話が途中で切れたから分かんないけど」
話しながら園田の向かいに座った。
「お前、もう行くなよ」
「なんで?」
「普通いかねぇだろ」
園田は飽きれたように笑って、手に持っていたペンを机に置いた。
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