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『熱い夜』

 優しく……されはしたけど、虚勢を張ってばかりでどうも甘さにかけていた。  抱き締めたいと、手に入れたいと願っても、引き寄せることも叶わなかった。  今夜を、今夜を最後にするから、優しく、甘く抱いて欲しいと願ったら、叶えてくれるだろうか。  虚勢を張らずに、「抱いて」と言えば、叶えてくれるだろうか。  一つでいい。  キスをして欲しい。  一度も触れ合うことの無い唇。舌。 「………欲張りだよ」  俯いて足元にある小石を蹴った。  視線で追いかけたその先に、一臣が響君を連れて歩いてくるのが見えた。  紙袋を一臣に押し付ける。  電話で話した時とは違う2人の雰囲気。響君は一臣に隠れているけど、うつむいたその耳は赤くなっているのが分かった。  何かが2人の間にあったのは明らかで、2人の惚気に充てられて寮に向かった。  何があったらこうも変われるんだろう。  恋人同士になるなんて簡単なことだろうと思っていた。好きだと告げて思いが通じ合えば恋人同士だと。  だけど、僕にはそのハードルが高すぎた。  告白もできない。身体だけの関係を断つこともできない。自分に甘やかして欲を出してしまったから。  エレベーターの階が上がるごとに鼓動は早くなる。  園田に無理やり引っ張られていくことばかりで、自分から向かっていくことは無かった。  緊張に手が震える。  部屋の前まで来て、足がすくんだ。  今更なのにと言い聞かせても指先は震えた。  胸ポケットから園田の生徒手帳を取り出して開錠して中に入った。

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