125 / 139

『聞こえる恋』

「キスは?」 「さっきのが初めて」 「何で言わなかったんだよ」 「ごめん」  園田の顔が少し赤い。戸惑った表情が可愛く思えるのは何でだろう。 「明日。明日から旅行に行こう。近くでもいいから」  急なことにビックリして、「何で?」と聞くと、「やり直したいから」と笑った。 「やり直し?」 「最初があれじゃ可哀想だろ……」 「ああ……別に可哀想とかじゃなくて……あれはあれで……」  最初で最後だと思っていたから。園田の勘違いに自分も便乗したのだから、それでいいと思っていた。 「俺の気がすまない」 「気が済まないって……いいよ。そんな風に思わなくて。僕は、僕はあれで幸せだったんだから」  あの後、後悔はした。想いを断ち切れなかったから。 「幸せって……俺は置いてきぼりにされて、一人寂しく朝を迎えたってのに、お前は一臣と一緒だったんだろ?」 「……うん」  一臣に背負われて部屋に帰ってそのまま一緒にベッドで寝てしまった。初めての朝は一臣と一緒だった。それを思うと少し残念な気もする。 「だから、行こうぜ」 「そんなに急には行けないよ。そんなに焦ること無いでしょ」  急に捲くし立てるように言う園田に戸惑う。 「やり直しくらいさせろよ」 「別にやり直さなくても……」 「俺が、やり直したいんだよ」  少し照れたように園田は横を向いて呟いた。

ともだちにシェアしよう!