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『聞こえる恋』

「ずっと、手に入れるのは俺だって、最初は俺だって思ってたから、奪われたと思ってかなり焦ったんだ。噂だけなら信憑性も無いから信じてなかった。だけど、あの日。目の当たりにしたら目の前の事しか入らなくて……よく考えれば慣れてないのは気が付いたはずだし、気が付けば優しく抱いてやれたのに……」  園田の手が頬を撫でる。その大きな手が唇に触れる。 「大事にしてやれたのに……ごめん」 「謝られることじゃないよ。僕だって、黙ってたんだから」 「だけど、優しく甘やかされたいって、お前思ってたんだろ?」  昨日の夜の願い。それはずっと思っていた願い。優しくキスを繰り返して、甘い睦言を囁かれて、恋人同士のように甘く優しく、素直に抱かれたいと、隠すことも無く、心ごと抱かれたいと願っていた。 「思ってた……だけど、今から…………抱いてくれるよね?」  今からいくらでもやり直しはできる。園田が『愛してる』と言ってくれたから。 「休みだしな」  いやらしく笑う園田に、「い、今すぐじゃないっ」と慌てて訂正した。 「ちっ」  し、舌打ち……。 「……今すぐじゃ、話ができなくなる」 小さく、囁くように園田に告げると、「まあ、後3日は休みだしな」と僕の赤い髪を撫でた。 「目立つ赤だよな」 「園田が触ったんだよ」  赤みがかった髪。高校に上がってすぐに染めた。少し茶色く、明るくする予定だったのに、自分で買ってきたヘアカラーの色を間違えたのがきっかけだった。  その髪を園田が、「いい色だな」って触ったんだ。それからずっとこの赤い髪。

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