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甘い毒

「ほら、ぷっくり腫れてきましたよ。判ります?」  甘い毒を含んだ声で囁きながら、結城が指の腹で内壁を撫でる。手足を縛られているせいで逃げ場がない。 「いっぱい弄って、気持ち良くしてあげますからね」 「や……やめてくれ。中が……変だ」  身体の芯が熱くなり、自分の中がぴくぴくと動いて結城の指を締め付けている。指が二本に増やされ、円を描きながらその場所を撫で回した。 「気持ち良くて、イキそうになってるだけですよ。我慢しないで。素直に感じてください」  篠宮の前の部分はすでに、こんなに硬くなる物かと思うほど張り詰めていた。身体の奥で渦巻いていたものが、はっきりと快感に変わり、出口を求めて暴れ出す。 「苦しいでしょ? 出していいんですよ」  結城の左手が、篠宮の屹立したものをそっと握った。そのまま、慣れた手つきで手首を上下に動かしてくる。 「いや、あっ、やめ……!」  もはや言葉にならず、篠宮は涙を流しながら身悶えた。苦しさと快楽が混じり合って、気が狂いそうになる。自慰の経験もろくにない篠宮にとっては、強烈すぎる刺激だった。 「あっ……!」  白い蜜が放物線を描き、自分の口の端を汚した。  どろりと粘ついた液体の、青くさい匂いが鼻をつく。手で拭うこともできないまま、濃い雫がくちびるから舌の上に滴り落ちた。 「う……」  情けない思いで胸が灼けるようだった。ひどい屈辱だ。自分の精液の味など、一生知りたくなかった。 「すごい勢いですね。溜まってました?」  結城が静かに指を引き抜く。面白がっている口調ではない。いたわっている口調でもない。その声からはなんの感情も読み取れなかった。  もしかして。結城をここまで追い詰めてしまったのは、他ならぬ自分なのではないだろうか。あの屈託のない明るさに甘えていたのは、上司である自分のほうだったのではないか。そこまで考えて、篠宮はそら恐ろしいような気持ちになった。恋とは、ここまで人を狂わせるものか。 「篠宮さん。愛してます……」  先ほど指が入っていた部分に、何か熱く固いものが押し当てられる。故意に眼をそらし、篠宮は直視することを避けた。指よりも遥かに太く、存在感のある何か。それがなんなのかは、わざわざ確認するまでもなく明白だった。  くちゅ、と音を立てて切っ先が入り込んだ。 「やっ、あ……!」  無理やり押し広げられる感覚に、篠宮は耐えきれず声を上げた。指で慣らされていたせいか、思っていたような痛みはない。代わりに、今まで経験したことがないほどの圧迫感が身体を支配する。  自分の中で、自分以外のものが脈打っている。それを感じたとき篠宮は、これは現実なのだとはっきり理解した。 「篠宮さんのここ、良い子ですね。ちゃんと柔らかくなって、俺のを美味しそうに飲み込んでますよ」  馴染ませるようにゆっくりと腰を動かしながら、結城は恍惚とした声で囁いた。 「中、熱いですね。思ってたとおり……いえ、思ってたよりもずっといいです」  抵抗するどころか、進んで彼を受け入れようとしている自分の身体に篠宮は驚愕した。先ほど指で刺激された部分が、信じられないほど敏感になり、少し擦られただけで達してしまいそうになる。くびれた部分を引っかけるように動かれると、声が抑えきれなくなった。 「い、いや……んんっ」  耐えきれずに切なげな声が漏れる。気持ちいい。心より先に、身体が反応してしまっている。 「や、あんっ」 「声、甘くなってきましたね。気持ちいい?」 「いや、あ……!」  中の粘膜が震え、押し入ってくる侵入者を優しく包み込みながら、共に快楽を得ようとしているのが分かる。  もう理性など意味がない。なんということだろうか。感じている。裸にされ両手両足を縛られ、部下に犯されて、今にも射精しそうなほどに感じてしまっているのだ。 「ここも可愛がってあげる……若いんだもの、まだまだイケるでしょ?」  篠宮の猛ったものを、結城は手のひらで包み込んだ。親指の腹で先端を撫で、あふれてきた蜜をさらに塗りつける。 「やめっ……あっ、出る」  耐えきれず、篠宮は思いきりくちびるを噛み締めた。  限界までふくれあがったものが、脈打ちながら欲望を吐き出していく。次の瞬間、結城が押し殺したような声を出した。 「うっ……!」  最奥に熱い迸りを感じた。  そのどろりとした濃いものを食むように、篠宮の中が体内の結城を何度も締め付ける。自分でも信じられないほど淫らな動きだった。 「やべ、持ってかれた……!」  肩で息をつきながら、結城は自分のものが抜けないように強く腰を押し付けてきた。 「篠宮さんのここ、イク時になるときゅんきゅん締まるんですね……ほんと可愛い。もう、気持ち良すぎて止まんないよ……」  優しい声であやすように囁きながら、結城が首筋に口接けてくる。鎖骨のあたりにくちびるが触れると、篠宮は小さく呻いて身じろぎした。 「ここ、感じるんだ? ……可愛い」  薄く笑って、結城はそこにも花びらのような痕をつけた。

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