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俺にだけは

「あれ。どしたんですか篠宮さん。酔っ払っちゃった?」  結城が微笑とともに問いかける。篠宮は無言のまま、背中に回した手に力を込めた。 「待って篠宮さん。そんな風にぎゅってされたら……可愛くて、押し倒したくなっちゃうから」  両肩に手を置いて軽く押し戻し、結城は篠宮の腕から逃れようとした。 「ね、離して? さっきの話聞いたあとに、そんな事したら……なんか俺、篠宮さんの弱みに付け込んでるみたいじゃないですか」 「……いい」  結城の肩に頭をのせたまま、篠宮は静かに呟いた。 「過去にこだわったって、生まれ変わってやり直せるわけでもない。昔のことは、もう忘れたいんだ。君に触れて、君の熱を感じている時だけは……忘れられる。忘れられるんだ」 「篠宮さん……」  少し考えてから、結城は覚悟を決めたようにくちびるを開いた。 「分かったよ……忘れさせてあげる。今だけでも」 「愛してます……篠宮さん」  優しく語りかけながら、結城が耳許に小さくキスをする。左手で篠宮の頭を支え、彼はシャツのボタンをひとつずつ外していった。 「愛してる……」  上半身が、少しずつソファに押し倒されていく。愛おしそうな眼差しでしばらく篠宮の顔を見てから、結城はそっと顔を近づけてきた。  くちびるが触れ合う。僅かに口を開き、篠宮は彼が訪れるのを待った。  温かく弾力のあるものが、くちびるの隙間をこじ開けて侵入してくる。からめとるように舌を吸われると、甘い痺れが身体中に広がっていった。 「篠宮さん……好きです」  くちびるを離し、結城は篠宮のベルトを外した。腰から下の服を下着ごとはぎ取り、はだけたシャツを肩から引き下ろす。篠宮の協力が必要なところになると、結城は静かな声でこう囁きかけた。 「ね……ぜんぶ脱いで? こんなに綺麗なんだもの……俺にだけは、見せて」  甘い言葉で巧みに誘導し、篠宮が自分から最後の一枚まで脱ぐように仕向ける。日焼けというものを知らない、白い肌が露わになった。  篠宮は軽く身じろぎした。煌々とついた明かりの下で、一糸まとわぬ裸体をさらすことに羞恥を感じる。なによりも恥ずかしいのは、両脚の間がすでに熱を持ち始めていることだ。ベッドにいる時は布団で覆い隠すことができたが、ソファの上ではそうもいかない。 「恥ずかしいの? ……もう何回もしてるのに」  からかうような結城の言葉を聞き、篠宮は真っ赤になった。いくら笑われても、長年の生活で身についた感覚は簡単には変えられない。結城と関係を持つまで、こんな風に全裸の姿を誰かに見せることなどなかったのだ。 「……電気消そうか」  テレビの横からリモコンを取り、結城は照明を落とした。みずからも服を脱いでソファの端に掛け、一歩一歩篠宮に近づいていく。カーテン越しに入る街灯の光が、引き締まって健康的な彼の肢体を、くっきりと浮かび上がらせた。 「篠宮さん……好き……」  頰をすり寄せながら、結城は篠宮の身体を抱き締めた。  篠宮は眼を閉じた。肌と肌がぴったりとくっつき、おたがいに吸い合っているような気がする。 「篠宮さんの肌、すべすべで気持ちいい」  裸の胸を密着させ、結城は脚を絡めてきた。両脚の間を重ね、二人のものをまとめてゆるゆるとしごき始める。しっとりと温かい手のひらに包まれ、篠宮は切なげに溜め息をもらした。 「あっ……」  先端からあふれた先走りが、卑猥な水音を立てる。手慣れた愛撫は的確に快感を引き出し、経験の浅い篠宮はただ翻弄されるしかなかった。  結城のものは眼で見て確認するまでもなく、大きく張り詰めて硬くなっている。これで奥まで貫かれる時のことを考えると、身体の芯が燃えるように熱くなった。 「あ、ゆっ……結城」 「イキそう?」  歯を食いしばって、篠宮は懸命にうなずいた。彼のもので中をかき回されることを想像し、後孔が物欲しげに収縮する。 「いいよ。俺の手の中に出して」  いちばん敏感な先端を指先でこねられると、篠宮はあっという間に吐精した。 「んっ、う……!」  精を放った後の虚脱感が、全身を包む。結城はその瞬間を逃さなかった。篠宮の身体から力が抜けたのを見て取ると、間髪を置かずに膝をつかんで両脚を大きく広げる。 「……これ、使わせてね」  抑えた声と共に、ぬるぬるとした液体が後ろに塗りつけられた。  先ほど自分が出したものだ。そのことを悟って、篠宮は赤面した。 「篠宮さんのここ……柔らかくなるの、早くなりましたよね。こんなに絡みついて欲しがって……可愛い」  固く閉じていたはずの蕾が、あっという間に指二本を受け入れる。傷をつけないよう慎重に進みながら、結城は内側の壁をくるくると指先で撫でた。 「いや、あっ……そこはっ……!」  結城の指がそこに触れると、篠宮は腰を浮かせて身をよじった。 「すごい締めつけですね。中もぴくぴくして……誘ってるんですか? 指よりも太いの、ここに挿れてほしいんでしょう?」  淫らな言葉を囁かれるたび、身体の芯に熱が集まっていく。受け入れることに慣れ始めた身体が、敏感に反応して準備を整えた。

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