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潮の満ち引き

「ごめん篠宮さん。もっと指で可愛がってあげたいけど……待てない」  濡れた蕾に先端を押し当て、結城は少しずつ腰を前に進めていった。  篠宮は肩で息をついた。肉の環が柔らかく広がって、待ち構えたかのように彼を受け入れていく。 「あ……あっ」  太くて硬いものが、中をかき分けて押し入ってくる。いっぱいに塞がれる悦びに、篠宮は背を仰け反らせて声をあげた。  酔っているせいだろうか。いつものような鋭く激しい快感ではなく、身体全体がふわふわと浮いているような気がする。 「愛してる……」  甘い声で結城が囁いた。  胸を寄せ、奥の感触を味わうようにゆっくりと腰を前後に動かす。もどかしいくらいの動きが、身体の中に眠る快感を静かに引き出していった。 「こういうのも、気持ちいいでしょ? いちばん奥の、深いとこで……俺を感じて」  歌うような彼の声が心地よく響く。  奥まで満たしてから、緩やかに引いていく。潮の満ち引きのようなその動きを繰り返されるうち、しだいに息が上がっていった。  穏やかな波が何度も押し寄せ、優しく強く、周りを取り囲んでいく。快感が積み重なり、大きな波となって徐々に逃げ場をなくしていった。 「篠宮さん、奥のここんとこが好きなんだ? ここに当てると、すっごい吸い付いてくる……気持ちいいんだね」  ゆったりとした動きで奥を突き上げられ、篠宮は耐えきれずに甘い声をあげた。 「あ、んっ……ああっ」  結城の動きに合わせ、自然に腰が揺れ始める。少しでも多くの快感を得ようと、中の粘膜が貪欲に蠢いて彼のものを舐めしゃぶった。 「すごいよ、篠宮さんの中……溶けちゃいそうだ」  熱っぽい結城の声を聞いたとたん、官能の波が堰を切ったように押し寄せてきた。  身体の奥が、媚びるように彼に絡みついている。篠宮は涙を流しながら快楽に耐えた。こうなってくるともう、自分では抑えがきかない。欲望の証を注ぎ込まれ、最後の一滴を搾りだすまで止まらないのだ。 「やっ……い、やだ、結城」  言い知れぬ恐怖を感じて、篠宮は固く眼を瞑った。まぶたの裏に星が見える。腕を伸ばし、篠宮は虚空を探った。なにかに縋っていないと、このままどこかへ流されてしまいそうだ。 「俺の背中につかまって。爪立ててもいいよ」  眼を開けて、篠宮は言われるまま結城の背に腕を回した。下肢が細かく震え始める。内側の壁が、体内にいる彼を愛しそうに包み込み、ぎゅっと掴んで離すまいとしていた。 「いやっ……あ……いく」 「いいよ、イッて」  結城がぺろりとくちびるを舐めた。最奥まで貫いたまま、中をえぐるように腰を回される。それが限界だった。 「あ、あっ……ん……!」  ……絶頂は静かに訪れた。  先端から白い蜜が噴き出していく。背すじを震わせながら、篠宮は射精の快感に身を任せた。 「俺も……イクよ」  結城がひときわ強く腰を打ちつけた。  身体の奥に、じわりと温かいものが広がっていく。下肢をつなげたまま、篠宮はそれをすべて受け止めた。どろりとした濃い液体が内部に沁み渡り、大きな充足感となって身体中を満たしていった。 「好き……好きです、篠宮さん」  くちびるを寄せてキスを繰り返し、結城が何度も睦言を囁く。二人は、そのまましばらく肌を重ね合っていた。 ◇◇◇  月曜日の朝。篠宮が少し早めに会議室へ向かおうとすると、結城が後ろから声をかけてきた。 「あれ。篠宮さん。どこ行くんですか?」 「どこへ行く、じゃない。十五分から経営戦略部と営業部で合同朝礼があると、連絡が来てたじゃないか。係長に先週言われただろう。聞いてなかったのか」 「そういえばそんな事あったような……? 週末が幸せすぎて、忘れてました」  結城の返事を聞いて、篠宮は肩を落とした。仕方ない。このくらい、いつものことだ。 「結城さーん!」  不意に、入り口のほうから女性の声が響いた。隣の部署の女性陣だ。結城が入社してからというものの『目の保養』という理由で、何かと営業部に入り浸っている。 「こんど戦略部に来る人、聞くところによると、めちゃカッコいいらしいわよ! 結城さん、見てきてよ。ほんとは会議室の前で出待ちしてたいんだけど、さすがにそれは怒られちゃうからさあ」  毎度毎度、どこからそんな情報を得てくるのかと篠宮は感心した。しかもそれがただの出任せではなく、けっこう正確だったりするのだ。 「いや、でも……俺、篠宮さん以上にカッコいい人なんて、この世に一人もいないと思います」  結城がきっぱりと言い切る。  その整った顔を見ながら、篠宮は首を傾げた。社交性と愛想の塊みたいなこの男が、篠宮正弓という男のことになると、急に空気が読めなくなるのはなぜなのだろうか。 「俺がチェックしてこようか?」  近くにいた佐々木が名乗りを上げた。 「結城に言っても無駄だよ。最近、篠宮主任好き好き病が悪化の一途をたどってるんだから。こいつから見たら、篠宮主任以外はみんなゴミ扱いだぞ」 「んー、そうねえ。よくよく考えれば、佐々木さんあたりが適任か」  女性陣の中の一人が、重々しくうなずく。佐々木は続けて、結城に話の矛先を向けた。

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