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熱い吐息

 篠宮もつられて周りを見る。いわゆるラブホテルと呼ばれる場所に来るのは これが初めてだった。もっといかがわしい雰囲気を想像していたが、ベッドの枕元にこれ見よがしに避妊具が置いてあること以外は、普通の家の寝室とたいして変わらないように見える。 「入った時から気になっていたんだが……そこにある、その自動販売機みたいな物はなんなんだ」  篠宮は、部屋の隅にある金属製のボックスを指し示した。表になにか書いてあるが、部屋が薄暗くてよく解らない。 「ああ、あれですか。たぶん、ラブグッズの自動販売機ですよ」  振り向いてそう答えると、結城は足取りも軽く機械の前まで歩いていった。 「ラブ……?」 「恋人同士が仲良く過ごすための物ですよ。まあ中身はランダムだから、なにが出てくるか判りませんけど。なんだろう。二千円……安いAVか、ローター辺りかなあ」  ぶつぶつと何か呟いたかと思うと、結城は内ポケットから財布を取り出した。この得体の知れない機械に、金を入れてみる気になったらしい。 「もし女性用のセクシーランジェリーだったら、篠宮さん着てみてもらえます? きっと似合いますよ」  冗談めかして笑いながら、結城は投入口に千円札を二枚入れた。札の吸い込まれる音が聞こえ、程なく、下の受け取り口に何かが落ちてくる。  結城はそれを拾い上げた。何か、ピンク色をした袋のような物が見える。  篠宮は眼を凝らした。スーパーなどでよく見かける、お得用の粉末緑茶やコーヒーが入っているようなアルミパックだ。 「へー、何これ。ローションバスだって」  表を軽く眺めると、結城は袋をひっくり返して裏の表示を確認した。 「入浴剤ですね。お風呂に入れると、お湯がローションみたいにとろとろになるらしいです。面白そうじゃありませんか? 使ってみましょうよ」  そう言うと、結城はさっさと服を脱ぎ始めた。いちど思い立ったら、すぐに試してみないと気が済まないたちらしい。 「篠宮さんも早く来てくださいね」  新しい玩具を与えられた子どものような顔で、結城は入浴剤の袋を持って風呂場へ向かっていった。  仕方なく、篠宮は自分も衣服を脱いだ。散らかった結城の服を見て溜め息をつき、軽くたたんで自分の服の隣に置く。  風呂場に足を踏み入れると、グレープフルーツのような柑橘系の香りが、辺り一杯に立ち込めていた。結城が身をかがめ、浴槽に肘まで突っ込んで中の湯を混ぜている。 「ね。見てください、これ」  そう声をかけてから、結城は浴槽の湯を手ですくった。ぬるぬるとした液体が、糸を引いてしたたり落ちる。その濡れた指先を見ると、身体の奥がかっと熱くなった。これから始まることを想像しただけで、背すじに甘い疼きが走る。 「準備できましたよ。入りましょ」  滑らないよう縁に手をつき、結城は先に浴槽に入った。片側に寄りかかって脚を伸ばし、続けて篠宮に手招きをする。 「ほら、篠宮さんも来て」 「……狭くないか?」 「大丈夫ですよ。俺の膝の上に乗って」  恐る恐る湯に入り、篠宮は結城の膝上に向かい合わせでまたがった。自分のような体格の男に乗られたらかなり重いはずだが、水の持つ浮力のためか、それほど体重をかけている感じはしない。 「篠宮さん、綺麗……」  軽く身体を起こして上半身を抱き寄せ、結城は篠宮にキスを繰り返した。 「ゆっくり楽しみたいけど、時間が決まってるからなー。今からでも宿泊に変えます? あ、実は俺、けっこうケチで貧乏性なんですよ。お金がもったいないから、最大限まで楽しむために、篠宮さんは絶対寝かせませんけど」  どこまで冗談なのか、結城はからかうように声を上げて笑った。同時に、片手を下に伸ばして閉じた蕾を探る。軽く触れられただけで、身体がぴくんと跳ね上がった。 「いいですね、これ。指で慣らすのも、このまま出来て便利ですよ」  話しながらくるくると表面を撫でていたかと思うと、結城はいきなり篠宮の中へ指先をもぐりこませた。湯全体にとろみがあるせいか、硬く締まっていたはずの部分が、驚くほど簡単に侵入を許していく。 「やっ、あ……!」  いちばん弱い場所を簡単に探り当てられ、篠宮は甘い声を上げた。 「ますます感じやすくなってるじゃないですか。十日以上も、どうやって我慢したの? もしかして自分でした?」 「そっ、そんなこと……」 「篠宮さん、後ろどころか、前も自分で弄ったことないでしょ? 今度、やりかた教えてあげますよ。俺のこと考えながら、俺の前でしてみせてください」  相手を貶めるような言葉をわざと口にしながら、結城は蕾の周りを親指と人差し指で挟み、すぼまった環を丁寧にほぐしていった。 「んっ、あ……」  感じる場所を指の腹がかすめるたびに、熱い吐息が口の端からこぼれる。篠宮の腰が揺れ始めたのを見計らって、結城は指を引き抜いた。 「もう大丈夫みたいですね。じゃあ、篠宮さん。ここに座って」  結城が自分の脚の付け根を指差す。篠宮は腰を少し前へずらした。 「そこじゃないですよ。ほら、見たら判るでしょ。篠宮さんの中に入りたくて、こんなにガチガチになってるんだから。いったん腰あげて、ちゃんと合わせてハメてください」  結城が有無を言わせぬ口調で命令する。

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