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理屈では解っていても

 彼の言うとおりいちど膝立ちになると、篠宮はその上にゆっくりと腰をおろしていった。硬く張り詰めて天を向いたものが、自分の重みで徐々にめり込んでいく。 「いっ……あっ」  ぐっと引っかかるような感覚を乗り越え、張り出した笠の部分が通過していった。 「そうそう……上手」  結城が腕を伸ばして篠宮の肩を支える。さらに腰を沈めて根元まで飲み込むと、柔らかな壁が彼の形に沿ってぴったりと嵌まり込んだ。根元まで受け入れた満足感に、思わず溜め息がもれる。 「奥まで上手に挿れられたね。じゃ、ご褒美にいっぱい気持ちよくしてあげる。しっかり俺に掴まって。滑ったら危ないでしょ?」  篠宮の背中に手を回し、結城は軽くくちびるをついばんだ。 「ちゃんと、気持ちいい時はいいって言うんだよ。イク時はイクって言って。勝手にイッたらお仕置きだからね」  そう言って、結城は腰を揺らすように下から突き上げ始めた。ゆるやかな振動が、身体の隅々まで快く響く。ぬるぬるとしたローションの感触に包まれ、全身が溶けてしまいそうだ。 「中が動いて吸い付いてきてるよ。ここ擦られると、たまんないんでしょ? ねえ篠宮さん、そういう時はなんて言うんだっけ?」  くちびるをゆがめ、結城が挑発的な笑みを見せる。何を求められているのかは解りきっていた。いつもそうだ。こうして肌を合わせひとつになると、結城はわざと意地悪な言葉で、篠宮の口から淫らな喘ぎを引き出そうとするのだ。 「う、あ……気持ちい……」  感じるままに、篠宮は呟いた。彼の欲する言葉を口にするたび、快感が何倍にもふくれ上がっていく。恥ずかしさよりも、快楽を求める本能のほうが勝った。 「何その色っぽい顔……やばい、気ぃ抜いたら出ちゃいそうです」  右手で篠宮の髪をかきあげながら、結城は恍惚とした表情で耳許に囁きかけた。 「俺も気持ちいいです。篠宮さんのここ、ほんと最高……俺を悦ばせるためだけにあるみたいですよ」  二人の呼吸が合わさり、しだいに早くなっていく。そのまま、どちらからともなく口接けを交わした。くちびるが合わさるたび、中の粘膜がうねうねと蠢いて結城にまとわりつく。 「もうっ、そんなに締めないでよ。保たないから」  結城が微かに笑った。 「ゆ、き……なか、出して」  切れ切れに呟きながら、篠宮は結城の首にすがりついた。その腰が明らかに射精を促すように動き始め、結城の顔から余裕が消えていく。 「やっ……ちょっと待って篠宮さん、マジでヤバい」  結城の制止の声も聞かず、篠宮は彼に抱きついて腰を擦りつけた。ふくらんだ先端が奥に当たるたび、欲望の証がそこから噴き出すことを思って達してしまいそうになる。 「ね、待って篠宮さん……! 俺だって中でイキたいけど、ここで出しちゃったら、帰りが辛くなるでしょ? ちゃんと掻き出してあげる時間もないし……」  自分を気遣ってくれる結城を、篠宮は涙に濡れた眼で見つめ返した。理屈では解っていても、身体の火照りはどうにもならない。たっぷりと奥に注がれ、濡れた粘膜が蕩けていくあの感覚を味わいたくてたまらなかった。 「……ああっ、もう!」  急に上半身を起こし、結城は怒ったような顔で言い放った。 「そんなに中に欲しいの? 身体中ヒクヒクさせて……ほんとエッチだな」  覚悟を決めた表情で、結城は大きく腰を使い始めた。その右手が、勃ち上がった篠宮のものを包んでしごき始める。もう一方の手で背中を撫でられると、とろとろとした湯の心地よさに意識が飛びそうになった。 「あっ、結城……気持ちいい……んっ、あ」  内壁が震え、小刻みに収縮し始める。熱くなった粘膜が奥まで彼をくわえ込んで、巻きつくように蠕動しはじめた。 「や、も……早くっ……」 「そうやってすぐ煽るんだから……いいよ、ぜんぶ出してあげる。後で泣いても知らないからね」  結城が腰の動きを速める。容赦なく最奥を突かれ、篠宮は一気に崖っぷちまで追い詰められた。身体の奥がきゅっ、きゅっと勝手に震えだす。 「結城、い……も、だめ、いく……イクっ」 「またそんなに締めて……! ほら、出すよ」  押し殺した声と共に、熱い奔流が打ちつけられる。神経が焼き切れそうな激しい快感が、身体中を電流のように鞭打った。 「あ、あっ、やあっ……! んっ」  どこかに飛ばされてしまいそうな恐怖から逃れるため、眼の前の肩に腕を回してしがみつく。濡れた壁が波のように動いて結城を締め付け、精路に残った蜜まですべて搾りあげた。  風呂の湯は、添付されていた融解剤を入れると少しとろみが薄まり、難なく排水口に流すことができた。 「なんか、肌すべすべになってる気がしません? 美容にいいのかな?」  シャツを身につけながら結城が言う。篠宮は自分の腕を見た。たしかに艶が増しているような気がするが、それが入浴剤のせいなのか、それとも……他に理由があるのかは判らない。 「あんなに汗をかいたのに、君は疲れないのか」 「疲れるなんてとんでもない。元気いっぱいです。だって、愛する篠宮さんと仲良く過ごしたんだもん」  満足げに笑う結城を見ながら、篠宮は胸の奥で考えた。いつからだろう。彼から身勝手なほどの激しさで求められることに、喜びを覚えるようになったのは。  きっと、初めて言葉を交わしたあの時からだったのだろう。篠宮は彼と顔を合わせた日のことを思い出した。  大好きで憧れていると彼から言われ、その時に生まれた感情を、自分は受け入れることができなかった。だから自分は、わざと避けたり突き放したりして、彼を近づけまいとしていたのだ。 「まだ終電には間に合う……私の家に来るか」  篠宮が静かにそう言うと、結城は驚いて眼を瞠った。 「……いいの?」 「私の勝手な勘違いで、君には迷惑をかけた。手料理は出せないが……近くにコンビニと、深夜まで営業している店が何軒かあるから、食事はどうにでもなる。君の家には何度も招いてもらっているのだから、私もそうしなければ不公平だろう」 「いえ、篠宮さんはそんなこと気にしなくていいんです。そりゃ、来ていいよって言ってもらえるのは嬉しいけど。それよりも、あの……篠宮さん」  上目遣いで顔色をうかがいながら、結城はおずおずと言葉を絞り出した。 「休みの間、俺と一緒に過ごしてくれますか」 「ああ」  篠宮はコートを羽織りながらうなずいた。結城が顔を輝かせた。 「ほんとに? 最初から最後まで?」 「……君がそうしたいなら」 「ね、篠宮さん。二人で美味しい物いっぱい食べましょう。家で一緒に映画観たり、音楽聴いたりしましょう。 初詣にも行こ?」 「君の好きにしたらいい」  その確固たる返事を聞くと、結城は顔を伏せ、感極まったように篠宮の肩口をつかんだ。 「どうしよう篠宮さん……俺、今すごく幸せです」  結城はうつむいたまま呟いた。抑えた声音が、すぐに涙声に変わる。 「馬鹿、そんなことで泣く奴があるか。行くぞ」 「はいっ」  返事をして涙を拭うと、結城は篠宮と肩を並べて歩き始めた。隣にいるだけで幸せだと、いつか彼が言っていたことを篠宮は思い出した。  こんな自分でも、誰かを幸せにすることができるのだという希望。それを与えてくれたのは、いま隣に居るこの人物に他ならなかった。

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