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ただひとつの存在

「篠宮さんの本当に好きなとこは、ここじゃないよね……後ろに欲しいんでしょ? 太いの突っ込まれて、気持ちいいとこいっぱい擦られて、思いっきり種付けされたいんだよね? ……駄目だよ。まだ触ってあげない」  乾いた部分にローションを継ぎ足し、結城がさらに容赦なく先の部分を擦りたてる。射精の時とも違う未知の感覚に、篠宮はただ翻弄されるしかなかった。 「いっ……いや、あっ、何」  もう耐えられない。そう思った瞬間、腰が大きく跳ね、先端から透明な液体が噴き出した。  結城が感嘆の声を上げた。 「すご……潮吹きって、本当にあるんだ」 「あっ、ああっ……!」  温かい水のようなものが、腹部を伝ってシーツを濡らしていく。何が起こったかも解らず、篠宮はただ涙を流しながら荒い息で喘ぎ続けた。 「まだ許しませんよ。俺以外の奴の気持ちを受け取ってるなんて……許せない。ねえ篠宮さん、このチョコレートは誰から貰ったの?」  汗に濡れた篠宮の両脚を開き、結城は後ろの窄まりを探った。  シーツに滴るほどローションをつけ、円を描くように蕾の周りをほぐしていく。肉の環が少しずつ緩んでくると、結城は中指をそっと挿し入れた。すぐに指の数が増やされ、くちゅくちゅと卑猥な音が響いてくる。 「やっ……」  抱かれることに慣れた身体は、いつもより性急な愛撫もすんなり受け入れた。内側の壁が勝手に動き、結城の指を奥へ奥へ招き入れようとする。 「女なの? 女の人じゃ篠宮さんの大好きな精子、ここに出してくれないよ? それとも男? 俺のだけじゃ足りなくなっちゃった?」  内側の壁を三本の指でなぞりながら、結城が執念深く詰め寄ってくる。感じるポイントを重点的に攻められ、篠宮は両腕を縛られたまま身をよじった。 「いや、だ……あ、んんっ」 「嫌だって声じゃないでしょ。嫌がる演技するんだったら、もうちょっと上手くやってよ。それじゃ、気持ち良くてたまんないって声だ」  ズボンの前をくつろげ、結城が大きく猛ったものを取り出す。篠宮は生唾を飲み込んだ。触れなくても判るほどに硬く張り詰め、勢いよく天を向いたその部分から眼が離せなくなる。  あれを挿れられたら、どうなるのか。それを知っている身体が、浅ましく彼を求めてうねり始めた。 「やっ……やめてくれ」 「そんな物欲しそうな顔しながら言われても、説得力ないよ」  呆れたように眉を寄せ、結城が先端を後孔に押し当てる。そのまま腰を進められると、蕾の中心が柔らかく開いて結城のものを徐々に飲み込んでいった。 「や……やだ、は……あんっ」  狭い道を広げられていく感覚に、篠宮は身体を震わせた。腰が自然に揺れ始め、隠しようもない快楽が甘い喘ぎとなってくちびるからこぼれる。彼を受け入れることでしか得られない悦びが、つながった場所から全身に伝わっていった。 「挿れただけでこんなに感じちゃって……これじゃ、お仕置きにならないじゃないか」  仕方ないなと言いたげに眉を寄せ、結城は溜め息をついた。 「篠宮さんは奥がいちばん好きなんだよね? ほら、ここだよ……分かる?」 「いっ……あ、そこ、駄目……!」  軽く突かれただけで、最奥の壁が嬉しそうにぴくぴくと動いた。さんざん前だけを弄られ焦らされたせいで、中の粘膜が過敏になっている。腰を入れて奥まで挿入されると、待ち望んでいたものが与えられた充足感に、すぐにでも達してしまいそうになった。 「篠宮さん、感じすぎ。そんなにいいの? もっといろいろ試したいのにさあ。ちょっと突いただけでこんなに乱れちゃうんじゃ、テクニックなんか要らないじゃん。ここに突っ込んでくれる人だったら、もう誰でもいいんでしょ? 気に入った男がいたら、声かけてみたら? 断る奴なんか誰も居ないよ。みんな、喜んで抱いてくれるんじゃない?」  心にもない事を言ってわざと自分の嫉妬をかき立てるようにしながら、結城がいちばん奥の腹側を突き上げた。柔らかな壁が彼を包みこみ、一緒にうねりながら快感を高めていく。 「あっ、ああ……結城」  つながった部分だけではない。全身全霊がただひとつの存在を求め、彼の手を声を、その視線を欲している。篠宮は固く眼を閉じた。彼とでなければ駄目なのだ。他の男とだなんて、考えただけでも吐き気がする。 「やだっ、そこ、当たって……あ、んっ……いく、イク」  激しい快感が背すじを貫き、頭が真っ白になる。最奥の壁がぎゅっと収縮して、結城の先端を逃さぬように咥え込んだ。 「いっ、あ……結城……いっ!」  痙攣しながら締め付けるたび、甘く痺れるような感覚がどんどん強くなっていく。ずっと絶頂のさなかにいるように膝が震えだし、止まらなくなった。 「……や、なんかっ。中……変っ」  いつもと違う異変を感じ、篠宮は必死になって身をよじった。快楽の波が留まったまま、去っていく気配がない。それどころか、新しく与えられる快感がさらに積み重なって、敏感になった身体を責め(さいな)んでくる。 「いや、あ、なっ……なんで」  間違いなく達したはずなのに、欲望が精路を駆け上る感覚も、射精した後の脱力感も訪れない。どうしていいか分からず、篠宮は泣きながら結城の肩にすがりついた。

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