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誰にも渡さない
「前々から気になってはいたんですよね。篠宮さん、激しいの好きだから。男二人だと、やっぱ耐荷重とか気になるじゃないですか。これなら、篠宮さんが感じまくって乱れても大丈夫ですよ」
「なっ……!」
反論しようとして、篠宮は口をつぐんだ。ベッドの上で自分がいつもどんな姿をさらしているのか、それを考えると言い返せるわけもない。
「ね、試してみよ……?」
甘い囁きと共に、結城の手が腰に回される。篠宮は真新しいベッドを眺めた。丈夫そうなマットレスやふわふわの羽布団を見ているうちに、胸の奥がむずがゆいような、妙な気分になってくる。
欲情している。その事に気がついて、篠宮は僅かに身じろぎした。結城の腕を振りほどいて身を離し、内心とは裏腹な言葉を紡ぎ出す。
「今日は……勘弁してくれないか。君も料理や片付けで疲れただろう。早く寝たほうがいい」
「えー。なんでですか? せっかくの新しいベッドなんだから、二人で使い心地試してみましょうよ。初夜ですよ初夜! 俺、これが一番の楽しみだったのに」
「君とその……すると……朝起きられないんだ」
口ごもりながらも、篠宮はなんとか答えだけははっきりと告げた。
結城と一夜を共にすると、翌日の朝はなぜか寝過ごしてしまうのだ。疲れているからかもしれないし、溢れんばかりの愛情を注がれて、心が満たされすぎているせいかもしれない。この際、理由はどちらでもよかった。
「篠宮さん、明日休みじゃないですか。いいですよ寝てて。俺、勝手に会社に行くから」
「そういう訳にはいかない。君は真面目に働きに出かけるんだ。せめて、身支度くらいはきちんとして見送りたい」
「そんな可愛いこと言われたら、よけい盛り上がっちゃいますよ……ねえ篠宮さん。俺もう、こんなになっちゃってるんです。なんとかしてくださいよ」
篠宮の腕をつかみ、結城はその手を自分の両脚の間に導いた。
結城のその部分が熱を持って硬く張り詰め、先端から透明な蜜をあふれさせている。少し触れただけでも暴発しそうな気がして、篠宮はすぐに手を引っ込めた。
「ねえねえ、ちょっとだけ。お願い! ゴムも着けるから!」
結城が泣きそうな顔で懇願してきた。
「仕方ないな……」
必死に両手を合わせる結城を見ていると、頑なに拒み続けるのも可哀想になってくる。溜め息をひとつ吐き、篠宮は結城の胸に身を預けた。
暗がりの中、二人の抑えた息遣いが響く。
「んっ……大丈夫、篠宮さん? 痛くない?」
「あっ、んんっ……大丈夫、だ」
「俺たちのここって、ほんとぴったりだよね……先っぽのとこ包んで、きゅって締めつけてくる。篠宮さんも気持ちいいでしょ? 声が甘くなるからすぐ判るよ」
ベッドの軋む音が微かに鳴っている。枠組みが丈夫で安定しているためか、さほどうるさくはない。
不意にその音が止まった。
「待って。篠宮さんがぎちぎちに締めるから、ゴム取れちゃったよ。ちょっと待ってて、もう一回つけるから」
続いて、がさごそと何かを探るような音が聞こえた。おそらく、枕元の避妊具を探しているのだろう。
「あ、結城……」
「ん?」
「その……そのままで……いい」
聞こえるか聞こえないかの声が、微かに空気を震わせる。
「ああもう……! 分かりました。生で挿れちゃうよ。また感じすぎて泣くことになるけど、いいよね」
布団をめくる音に続き、ベッドの軋みがひときわ大きく響いた。
「うっ、あ……ん」
感極まった声が上がる。明らかに、快楽に溺れている声だ。
「やっぱ生、すごいね……俺のに張り付いて、舐めまわしてくるよ」
くちゅくちゅと湿った音がする。二人の息が荒くなり始めた。
「ああ……篠宮さんの中、最高に気持ちいいよ。もう出ちゃいそうだ」
「結城、い……あ、おく、奥が……あっ」
「感じてるんだね……すごく締まってきたよ。篠宮さん……んっ……愛してるよ」
「私もっ……あ……」
声が掠れ、途切れる。濡れたような水音がしだいに大きくなった。
「篠宮さんも……何?」
「ん……っ」
沈黙が流れる。快感が強すぎて返事もできないのか、それとも答えを口にするのをためらっているのか。続く言葉はない。
「言ってよ……言ってくれたら、もっと気持ち良くしてあげる」
ぎしっ、とベッドの鳴る音が響いた。体勢を変えたのだろう。脚を抱え上げたのかもしれない。
「ね……言って? ほら、ここ突いてあげるから。ここ好きでしょ?」
「いっ、あ、や……!」
声が細く、高くなった。泣いているような声だ。
「言って、篠宮さん」
「あっ、ゆ、結城……」
ぐちゅ、ぐちゅという濡れた音のリズムが、次第に力強く、速くなってくる。
「好きだよ……大好きだよ、篠宮さん。誰にも渡さない……愛してる。愛してるよ」
「んっ、あ……愛してる……愛してる結城……いっ、あ、もういく、イくっ」
「……ああ、凄 えイイ……! 篠宮さん、俺も……イくよ」
「あ、やっ、抜かな……ナカ、中に……んんっ!」
「んっ、あ……!」
二人の低いうめき声が同時に聞こえる。続けて、乱れた息が幾重にも重なった。はあはあという荒い息遣いが、少しずつ緩やかになり、徐々に落ち着いていく。
「……もう。篠宮さんが脚で押さえるから、中に出しちゃったじゃん」
面白がっているような、明るい笑い声が聞こえた。
「どう、このベッド……気に入った?」
答えはない。ちゅ、ちゅ、とキスをするような音が何度か繰り返された。
「気に入ったみたいだね……ん、眠い? 寝てていいよ。俺が綺麗にしといてあげるから」
箱から何枚かまとめてティッシュを引き出す音がする。しばらくすると、丸めたティッシュを捨てるような音と、布団を掛け直したと思われる衣擦れが聞こえた。
夜の闇に静寂が訪れた。
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