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口接けを誘って
「君にはプライドというものが無いのか……?」
「そんなものどうでもいいです。土下座しただけで篠宮さんとエッチできるんだったら、俺、何回でも土下座します」
「まったく……」
すがりつくような結城の眼を見て、篠宮はついに我を折った。ここまでさせておいて断わったら、拒んだ自分のほうが悪者に思えてしまう。
「分かった分かった……いいから頭を上げろ。情けなさすぎる」
「やった! 篠宮さん大好き!」
歓声と共にベッドに飛びのると、結城は篠宮の胸を抱えてシーツの上に倒れこんだ。嬉しそうににこにこと微笑みながら、肌をすり寄せて顔中にキスを浴びせる。
「どうせだったら、今までやったことない体位でしてみたいですよね……ねえ篠宮さん、ここにまたがって、上に乗ってみてもらえませんか?」
ベッドの上に横たわり、結城は自分の下腹部を指さした。上になって受け入れろ、ということらしい。篠宮は記憶をたどった。そういえば映画かなにかの濡れ場で、そんな感じの体位を見た憶えがある。
「いや、それは……いくらなんでも重いだろう」
「えー。大丈夫ですよ」
「本当か……?」
体重をかけないようにしながら、篠宮は結城の上にまたがってみた。映画のシーンで上に乗っていたのは、グラマーではあるものの小柄な女性だったように思う。自分のような男が乗って大丈夫なものなのか、自信がない。
「ぜんぜん重くありませんって。前に手ついて……そうそう、いい感じ」
篠宮の姿勢が安定すると、結城は視線を合わせて笑みを浮かべた。篠宮はどきりとして眼をそらした。いつも見下ろされていることが多いので、こうして見下ろす側になると妙な感じがする。
「もうこの際だから、篠宮さんがお休みの間に、普通にできる体位はぜんぶ試しときたいですよねー。してない事もいっぱいあるし」
「してないこと……?」
「まだ結構あるんですよねー。立ちバックと寝バックはしたけど、普通のバックはまだだったかな……背面座位もまだですよね。中イキに潮吹きにトコロテン……この辺はひととおり経験済みかな」
「なんの話をしてるのか解らないんだが……」
篠宮は眉をひそめた。単語の意味がまったく解らないが、とてつもなく下品な話だということはなんとなく想像できる。
「あー、あと、あれやってない! 顔射!」
結城が急に大声を上げる。篠宮は聞いたことがなかったが、なんとなく言葉の響きで、どんな行為を指しているのかは理解できた。
「へへ……」
意味ありげな表情を浮かべながら、結城は篠宮の頬を撫でた。顔じゅうを白いもので汚したところを想像して、ひとり悦に入っていたのかもしれない。あまりにも勝手な妄想に、篠宮は気分を害して眼をそむけた。
「あ。顔にかけちゃうなんて、もったいないと思ってるんでしょー。篠宮さん、中出し大好きだもんね。安心してよ。俺だって中でイキたいもん。需要と供給が一致してるよね?」
からかうように言いながら、結城は傍らにあるローションのボトルをつかんだ。中の液体をたっぷりと手のひらに取り、彼を受け入れる場所に丁寧に塗り付けていく。
「最近、君のセクハラが度を過ぎているように思うぞ……」
喘ぎ声が漏れそうになるのを必死で抑えながら、篠宮は恨み言を述べた。結城は気にした様子もなく、ゆったりとした手つきで後ろの窄まりをほぐしている。内側に指が入り込んでくると、篠宮は抵抗を諦めた。こんなに感じながら怒ってみせても、なんの凄みもない。
「だって……大好きな人を、いろんな方法で気持ちよくしてあげたいっていうのは、当然の欲求じゃありませんか? それに俺、篠宮さん以外の人とそんなことしたいなんて思いません。篠宮さんとだから、したいんです」
結城が、先ほどとは打って変わった真面目な口調で話しかけてきた。その真剣な眼差しを見ると、不覚にも胸が熱くなってしまう。濡れて半開きになった結城のくちびるが、どんな言葉よりも雄弁に口接けを誘っていた。
「……キスしよ」
言われるままに、篠宮は身をかがめてくちびるを合わせた。
「篠宮さん、好き……大好き」
右手の指を篠宮の中に潜り込ませたまま、結城はもう片方の腕で背中を抱き寄せた。
「んっ……」
くちびるを押しつけ、どちらがどちらか判らなくなるほど貪欲に求め合い、お互いに舌を絡ませる。先に音を上げたのは篠宮のほうだった。押し寄せる官能の波に耐え切れず、中に入った結城の指をぎゅっと締めつけてしまう。
「駄目だよ、指だけでイっちゃ……もっと太いのでイキたいでしょ? ……ほら、準備できたよ。自分で挿れてみて」
右手を添え、結城が自分のものの先端を押し当てる。篠宮が少し腰を動かすと、充分に濡れたその部分が、柔らかく広がって彼を飲み込んでいった。
「あ……結城……ああ」
背中を震わせ、篠宮は身体の芯を貫く快感に耐えた。腰を落として彼を受け入れると、奥に届いただけでもう達してしまいそうになる。
「は……あ、んっ」
意識して深呼吸し、跳ね上がる心臓を無理に落ち着かせて、篠宮はようやく快楽に逃げ道を作った。
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