95 / 396

指図は受けない

「なにか食べたい物はあるか? とはいっても、私はこの辺の店については、あまり詳しくないが」 「そうだな……たまにラーメン食べたい。駅の裏に、まあまあ美味しいとこがあるんですよ。そこでいい?」 「ああ」  結城の後について、ラーメン屋へと向かっていく。人通りの少ない路地に差し掛かったところで、篠宮は詫びの言葉を口にした。 「結城……済まない」 「え? どうして篠宮さんが謝るの?」 「君がそんなに、眠れないほど意気消沈するなんて思っていなかったんだ。断るにしても、もうちょっと角の立たない言いかたがあったと思う」 「もう。そんなこと気にしてたの? 道理で、妙に優しいと思ったよ。謝らないでいいって。篠宮さんは悪くないんだから」  不意に足を止めて、結城は篠宮の顔をじっと見つめた。 「なんでもかんでもすぐ自分の責任だと思っちゃうのは、篠宮さんの良くないとこだよ。悪いのは俺なんだから、俺のほうから謝らせて。ごめん篠宮さん。俺、浮かれてて、篠宮さんの身体のことまで考えてなかった。愛してるんだから、大事にしなきゃいけないのに」  そこまで言うと、結城はくちびるの端を上げて笑みを見せた。 「もうすぐ着くよ。行こ?」  結城が篠宮の手を取って歩き出す。周りに誰もいないことを横目で確認し、篠宮はその手をそっと握り返した。  シャワーが済んで後は寝るばかりになると、篠宮はソファーの背もたれに寄りかかって、結城と過ごしてきた休日を思い返した。  今日は木曜日。有給休暇も明日で終わりだ。普通の人なら、残り少なくなっていく休みを思って嘆くところだろう。だが、篠宮は違っていた。電話だのメールだの打ち合わせだので一息つく暇もない、あの騒がしい営業部に早く戻りたい。心の底からそう思う。  なんだかんだと文句を言いながらも、自分は結局、結城と一緒に仕事をするのが好きなのではないか。ふとそんな考えが頭をよぎり、一人で苦笑する。  篠宮は時計を見た。二十二時三十分。ベッドに行くには少し早いが、横になっているうちに眠くなってくるだろう。結城はもう寝ているはずだ。起こさないように近づいて、隣に滑り込めばいい。  立ち上がって電気を消し、篠宮は隣の寝室へと向かった。  ドアを開けると、スタンドの明かりが小さく点いているのが見えた。ベッドに横たわった結城が、寝返りを打ちながら髪をかきあげている。部屋は適温のはずだが、手足をせわしなく動かして寝苦しそうな様子だ。 「まだ寝てなかったのか」 「うん。なんか……眠いんだけど、気持ちがざわざわして落ち着かないんだ」  意外と繊細なのか。少しばかり失礼なことを思いながら、篠宮は立ち止まって結城の顔を見つめた。そういえば二人で出張に行ったとき、彼は、眠れないといけないからと睡眠薬を処方してもらっていた。 「篠宮さん……隣に来てよ。篠宮さんが添い寝してくれたら、安心して眠れるかも」  結城が甘えた声で懇願する。疲れているせいか、今日はさすがに手を出してくる気はないようだ。 「ああ」  ベッドまで歩み寄ると、篠宮は枕の横に手をついて布団に潜り込んだ。  篠宮の寝る場所を空けるためか、結城が身体をずらしてベッドの端に寄る。仰向けになった脚の付け根の辺りが、小山のように盛り上がっていた。 「……硬くなってるぞ」 「疲れてるから、逆にそうなっちゃうのかな。昨日してないし……」  結城が情けない声をあげる。疲労が溜まっているためか、いつになく弱気だ。 「一日や二日、我慢できなくてどうする。堪え性のない奴だな」  篠宮は布団の上から、彼の中心に手を当てた。普段と違って遠慮がちな結城の様子に、自分でも気づかなかった嗜虐心をそそられる。 「待って篠宮さん。そんなふうに触られたら……したくなっちゃうよ」 「そんなふうも何も、最初からこうなってるだろう。私が悪いみたいに言うな」 「篠宮さんが色っぽすぎるのが悪いんだよ。俺はいつだって、篠宮さんのこと抱きたいって思ってるんだから。でも……そんなに毎日したら、篠宮さん、身体がつらくなっちゃうでしょ」  結城の視線が、理性と情欲の狭間で悩ましく揺れ動いている。その瞳を見つめながら、篠宮は挑戦的に微笑んだ。今日の結城は、いつになく控えめで弱気になっている。こんな機会はめったにない。 「じゃあ、君のこれはどうするんだ。このまま放っておくのか? それとも自分でどうにかするのか?」 「う……」  結城が泣きそうな顔を見せる。その表情とは反対に、身体の中心はますます硬くなって、大きく布団を持ち上げていた。 「もう君の指図は受けない。要するに、私の身体に負担がかからないようにしながら、君を満足させればいいわけだ」  ばさりと音を立てて布団をめくり、篠宮は結城のパジャマと下着を引き下ろした。  硬くなった中心が勢いよくそそり立つ。太く張り詰めた幹の部分に、篠宮はそっと顔を近づけた。結城にいつもされているように、くちびるを付けて優しく横から咥えるようにする。結城が身をよじって離れようとした。

ともだちにシェアしよう!