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遠い海鳴り

「また気絶したら困るじゃないですか。そうならないように、二人で練習しよ? 大丈夫。気を失ったりしないように、俺がちゃんと見ててあげるから。慣れると、挿れられただけですぐイけるようになって、気持ちいいのがずっと続くんだって……ね? 篠宮さん感度いいから、きっと上手くいくよ」  篠宮の返事を待たずに、結城がタオルやローションをいそいそと用意し始める。抵抗を諦めて、篠宮は彼の手にすべてを委ねることにした。結城がその気になっている以上、もはや断るという選択肢は残されていない。なんだかんだと言っても、最後には言うことを聞かされてしまうのだ。 「まずはリラックスして……って言っても、急には無理か」  準備が整うと、結城は篠宮の上に覆いかぶさってくちびるを重ねた。  指先で髪をかき分け、耳の後ろあたりをくるくると撫でる。硬く熱を帯びたものを腰に押しつけられ、篠宮はしだいに鼓動が速くなっていくのを感じた。リラックスするどころか、余計に緊張が高まっている気がする。 「顔赤くしちゃって。可愛い」  いちど肘を立てて身体を起こし、結城は篠宮の顔を正面から見下ろした。 「ね、篠宮さん。今日は新しいキスの仕方、教えてあげる」  優しく微笑みかけ、結城は篠宮の両耳に手のひらを当てた。 「こうして耳ふさいでキスするとね。口の中の音がよく聞こえるんだ。試してみる? 篠宮さんも聞いてみて。すごくエッチな音がするから」  そう言うと結城は、耳を押さえる手に僅かに力を込めた。遠い海鳴りのような音が、手のひらの中で小さく反響する。 「んっ……」  そっとくちびるを吸われ、篠宮は呻き声を漏らした。耳をふさがれているせいで、舌と舌の触れ合う音が頭の中で跳ね返り、いつもの何倍も大きく聞こえる。 「……ふっ、あ」  ぴちゃぴちゃと湿った音が、荒くなっていく自分の吐息が、身体中にこだましていく。その濡れた響きに煽られ、篠宮は自分から舌を突き出した。  情欲の昂りを察した結城が、くちびるを深く合わせて舌を搦めとる。彼と触れ合うことで生まれる甘い快楽に抗えず、篠宮は夢中で口接けを貪った。  身体のあちこちが熱く火照り始め、その熱が徐々に中心に集まっていく。結城の舌が、上顎の内側を軽く舐めた。触れられてもいない下腹部が、甘い疼きを感じてぴくりと跳ねる。 「い……あっ」  篠宮は耐えきれずにくちびるを離した。口の中に性感帯が存在するなんて、結城に教えられるまで考えたこともなかった。 「あれ。もう降参?」  揶揄するような声で呟き、結城は篠宮のひたいの生え際を指先で撫でた。はぁはぁと息を乱す篠宮の顔を見下ろし、さらに優越感に浸った表情で眼を細める。 「ほら。うっとりしてる」 「……してない」  どことなく負けたような気がして、篠宮は尖った声で反論した。 「まだ強情張るの?」  意地悪く笑って、結城は篠宮の胸の突起をつまみあげた。  薄く色づいた部分に指先を当て、軽く揺らす。甘い痺れが肩の辺りを包みこみ、両脚の間に熱を送っていった。 「やっ……」 「ね、こんなに感じやすいんだから。篠宮さんの感じるとこなら、俺、ぜんぶ分かってるよ。だから、俺以外の奴にその気になったりしないでね? 篠宮さんをいちばん気持ち良くできるのは、俺なんだから」  滑らかな肌の感触を楽しむように手のひらを滑らせ、結城は篠宮の後ろの狭間に指を当てた。 「早くこっちに欲しいんでしょ? じゃ、準備しよっか。膝立てて、脚開いて」  ローションのボトルを手に取り、慣れた声で結城が命じる。 「やっ……」  とろみのあるその液体を見ただけで欲情していく自分を感じながら、篠宮は最後の抵抗を試みた。男であることのプライドと、快楽を求める気持ちが、お互いに自己主張しあって激しく心を揺さぶる。 「今さら恥ずかしがらないでよ。まあ、恥ずかしがってる篠宮さんも可愛いんだけどね。俺に諦めさせようとしてそうしてるなら、逆効果だよ? 篠宮さんが本気で嫌がってないのは、分かってるんだから」  屈辱的な台詞と共に、結城が奥の窄まりにローションを塗りつけてくる。(ひだ)を伸ばすように丁寧に塗り広げられると、輪になった部分がさらなる刺激を求めてうねうねと蠢いた。 「あっ、あ……」 「篠宮さん、本当にここ弱いね。面白いくらい」  しだいにぬかるんできたその部分に、結城がゆっくりと中指を差し入れる。ローションを継ぎ足しながら周りをほぐしていくと、固く閉じていた後孔はすぐに三本の指を受け入れるようになった。 「篠宮さんのここ、ほんとに柔らかくなるの早くなったよね。ね、篠宮さん。俺がいいって言うまで、イっちゃ駄目だよ」  指を抜いた結城が、もっと硬く太いものをその部分に押し当ててきた。奥まで貫かれる予感に、背すじが軽く反り返る。ぐっと力を込められる感覚と共に、張り出した先端が入り込んできた。 「ん……」  篠宮は低く呻いた。  熱い昂りに身体の中を犯され、徐々に押し広げられていく感覚。この感じにはいつまで経っても慣れない。慣れるどころか、回数を重ねるごとに快感が高まり、頭がぼうっとして自制がきかなくなっている。

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