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ひとつのもの

「ああ……いいよ、篠宮さん。もっと引っかいて。爪立てるほど感じてる篠宮さんの顔、最高にそそるよ」  甘く掠れた結城の声が、余計に劣情を刺激する。お互いがお互いを昂らせ、誘い合うのを感じながら、篠宮は腰を押しつけてさらに深く交わった。自分が結城を求めるのと同じ強さで、彼も自分を求めているのが分かる。 「やっ……いく、イク、うっ、あ、ああっ!」  奥までくわえ込んだものを、これ以上ないというほどにきつく締め上げながら、篠宮は絶頂に達した。 「いや、あっ、あ……ひ、あっ」  背を仰け反らせ、篠宮は全身を焦がすような快楽にむせび泣いた。射精するときの、すべてから解き放たれる虚脱感がない。溜まりに溜まった熱がずっと内側にとどまり、神経を焼き切りそうな快感となって指先まで走り抜ける。 「いやっ、結城、やっ、そこ、あっ……!」  奥の粘膜が媚びるように結城を包んでまとわりつき、彼を受け入れる悦びを伝えている。早く射精してほしいと言わんばかりの淫らな動きだ。 「凄い……! イッてるの分かるよ。中がうねりながら締め付けてくる」  恍惚とした表情で頰を上気させ、結城が快感を伝えてくる。情欲に濡れた瞳で、篠宮は恋人の顔を見上げた。自らの乱れようを恥じる気持ちが、恋人に快楽を与えているという喜びに一瞬で昇華する。 「あっ、結城……愛してる、ん、ああっ」 「俺も……好きだよ、篠宮さん」  篠宮がどれほどの痴態を見せ、あられもない声をあげても、結城は的確に望む言葉と行動を返してくれる。淫らな欲望を恥じる気持ちは遠くに押しやられ、愛する人とひとつになる幸福が代わって胸を満たした。 「結城、いっ、あ」  最奥の壁が意思と関係なく震え始めた。引き攣れるような感覚と弛緩する感覚が交互に訪れ、そのたびに耐えがたい愉悦が身体の芯を痺れさせる。 「や、あっ、結城……ん、んっ」 「ナカ気持ちいい? もう身体中、どこ触られてもイけるでしょ?」  結城の先端が、奥を振動させるように小突く。弱点を知り尽くしたその攻めに、ただでさえ敏感な篠宮の身体が耐えられるはずもなかった。 「う、動くな、イってるから……あ、ああっ!」 「無理だよ篠宮さん。俺も気持ち良すぎて、腰が止まんない……篠宮さん、中がきゅんきゅんしてるよ」  篠宮の手を握り締め、結城は最後の瞬間へ向かって動きを早めていった。 「奥がずっとピクピクして、俺が出すの待ってるのが分かる……ねえ篠宮さん、こんな中に射精されたら、どうなっちゃうの?」  甘く誘う言葉を聞くたび、後孔が期待でぶるぶると打ち震える。この蕩けきった身体で、熱い精液を受け止めたら、どれほどの快楽が待っているのか。考えただけで気が遠くなる。 「いっ、嫌だ……やめ……あっ」 「嫌じゃないでしょ。欲しいんでしょ?」  結城が奥を小刻みに突き続けた。甘美な餌を眼の前にぶら下げられ、理性が彼方へ押し流されていく。内側の壁がなりふり構わず彼に吸いつき、望むものを搾り取ろうとしていた。 「あ、欲し……い、あっ」  篠宮のくちびるから、悲鳴まじりの懇願が漏れた。もうどうなってもいい。僅かに残っていたプライドが、快楽の前に屈服する。 「篠宮さん……もっと、俺のこと欲しいって言って。俺の、全部……全部あげるから」  熱っぽく囁かれる結城の言葉が、さらに情欲を駆り立てる。腰を突き出して恋人を奥へ迎え入れ、篠宮は高く声を上げた。溶けて混ざり合って、ひとつのものになってしまいたい。そんな気違いじみた願いが、身を焦がすほど激しい情欲となって胸を埋め尽くしていく。 「結城、あっ……! 欲しい、中……出して」 「んっ……イくよ」  体内の彼がひときわ大きく膨れ上がり、先端から熱い液体が飛び出してくる。背をのけぞらせ、篠宮はその大量の精液を全身で受け止めた。 「や、ああっ、あ、あ……!」  彼の遺伝子が、粘膜に直接刷り込まれる感覚。この世のものとも思えぬその快楽に、一瞬気を失いそうになる。 「う、ううっ……ん」  まぶたをきつく閉じくちびるを噛んで、篠宮はどうにかこの世に意識を繋ぎ止めた。  体内を満たしていたものが抜き取られても、引き攣るような激しい快感がなかなか去っていかない。ようやく官能の波が少し落ち着いたと思ったところで、篠宮は静かに眼を開けた。汗びっしょりになった結城が、肩を上下させながら呼吸を整えているのが見える。 「篠宮さん。気持ち良かった? って……顔見れば判るか」  不意に問いかけられ、篠宮は頬を真っ赤にしたまま瞳を上に向けた。  鏡を見るまでもない。今の自分は、誰が見ても情事の直後だと分かる顔をしている。そう思って慌てて表情を取り繕おうとするが、うまくいかない。 「ね……篠宮さん。また今度、一緒に練習しよ? 俺、篠宮さんがいっぱい気持ち良くなれるようにしてあげたい。挿れただけでイけるようにできたら、最高」  優しい微笑と共にとんでもないことを言われて、篠宮は霧散したはずの羞恥心が再び戻ってくるのを感じた。

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